Monday, September 18, 2006

山頂より:その1/ a peek from the peak #1.

山頂にたどり着いた時代を感じさせる出来事をちょこりちょこちょこ、メモしていきます。

原油価格はこのところ下降気味ですが、こうした価格の不安定化もピーク時代の特徴のひとつであることは以前から指摘されています。高値でも「安定」していれば、経済や社会への影響も少ないのですが,急激な上昇や急激な下降といった「不安定化」は経済や社会の不安につながりがちで、まさにピーク論者が「議定書」を呼びかけ警告する理由です。

もうひとつの兆候はこれまで「否定」したり「無視」したりしてきた人たちがあっさりと,あたかも当たり前のようにに,大したことでもないかのような文脈で言及し始めることです。
本日のシドニー・モーニング・ヘラルド紙は,(経済面で)IEAのマンディル事務局長がABC-TVで行ったインタビューに基づく記事を載せています。記事の重点は,少なくともこれから2年間、原油価格が60ドルを割ることはないというところですが、この中で,驚くほどさらりとピークが言及されています。

マンディル事務局長が,少なくともここ2年ほどは「価格は快適なレベル」に戻らないだろうとするのは、新規油田施設での生産が始まるのは2年後であり,精油設備も2010年以降にならないと精製能力の拡大が見込めないからだそうです。「快適なレベル」が具体的にはどの位をさすのか,マンディル事務局長は答えなかったようですが,4〜50ドル台をさしているものと思われます。ピーク論者の中には今年末にも100ドルを超えるとするものもおり,それに比べるときわめて楽観的な予測です。

記事の中では副次的に扱われていますが,マンディル事務局長によれば、在来型の石油,いわゆるフツーの石油について、「これから数十年のうちにピークが訪れるかもしれない("Maybe we will witness peak oil in the coming decades.")」とのことです。きわめてさらりとした扱いです。

その発言の前振りは、エネルギー・ピークが訪れるのは「ずっと先」のことである、です。そして、その理由は、タールサンド,液化石炭,液化天然ガス、そして、超深海油田があるからだ、そうです。つまり、オイル・ピークは来るかもしれないけど,大丈夫,非在来型の燃料があるから、何にも心配することはない。

いやあ,さらりと楽観的に言ってくれます。

フツーじゃないアブラを精製するエネルギー・コスト,フツーじゃない場所から石油を掘り出し,輸送するエネルギー・コストがどれほどのものであるのか,まったく考慮されていません。これじゃ、いくら、大丈夫だと言われてもなあ。

もうひとつ読み取れることはIEAは「エネルギー」に関する団体であり,フツーの石油に固執するものではない、ということです。最近になり,IEA発行のオイル・マーケット・レポート(石油市場報告)にエタノールなどバイオ燃料が生産量として勘定に組み入れられるようになったのも、なるへそ、納得です(すでにブラジル、アメリカ,ドイツに関してはバイオ燃料が勘定にはいっていたが,世界各国に拡大された)。

IEAがフツーの場所から生産されるフツーの石油について、ピークが近い将来訪れるかもしれないと認めたことだけは、しっかりと記憶しておきましょう。

驚くほどさらり、と言えば,バイオマス燃料情報局が15日付で、日刊工業新聞が先週の「エネルギー 安全保障と環境のはざまで」という特集記事のなかで、あっさりとピークに言及していることを報告しています。

「エネ庁はMHが海洋産出試験を経て生産に向かうのは2016年以降と判断。現状は数年前よりは探査技術が向上し、MHの分布エリアははっきりしてきた。ただ地下にあるMHをどう分解するのか課題は多い。原油が生産のピークに向かう中、MHが天然ガスシフトを加速するアクセレーターとなれるのか。」
(文中のエネ庁は経済産業省傘下の資源エネルギー庁、MHはメタンハイドレートのこと。)

バイオマス燃料情報局長によれば、日刊工業新聞はこれまでにピークに言及したこともないそうですが,あたかも既成事実のように、当然とあっさりとした書き方です。

これまでピークを否定した人たちや見向きもしなかった人たちが、オイル・ピークを当たり前のように捉えること自体悪いことではないでしょう。しかし、それが簡単に乗り越えられるもの,何か別な燃料で簡単に代替できるかのような幻想を与えることは危険であり,間違っています。

1 comment:

Anonymous said...

局長です。
人は見たくない現実は見ない、と塩野七生が書いていたのを思い出します。