Friday, September 29, 2006

土地利用を巡る競争の激化/fuel or food?

現代社会に暮らしていると忘れがちなことですが,どれだけ電力やガソリンがあろうと、それ自体では、直接腹を膨らせることはできません。金もそう。どれだけ金持ちでも、店に出かけたりして,それを食物と交換しないと腹は膨らみません。逆に,自宅の庭や近所の共同菜園に野菜や穀物が育っていれば,ちょっとやそっと貧乏しようがヘッチャラなものです。
何度も指摘していますが、オイル・ピーク問題の一番重要なポイントは食料問題です。穀物や砂糖、大豆を代用アブラに使おうとする要求が強まる中で,「燃料対食料」、限られた農地の利用法を巡る競争、農産物の使い道を巡る競争はますます激化しています。
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24日,ムンバイ発のロイター電はパームオイルや大豆油の値段の高騰を伝えています。価格を押し上げているのは、バイオ燃料としての需要の高まりです。この記事によれば,年間消費量1億2千トンのうち,「代用燃料」の原料に使われているのは900万トンです。来年は300万トンの供給増が見込まれているものの,需要は650万トンの増加が見込まれています。すなわち、供給が需要に追いつかない状態です。

アブラヤシの油を搾って生産されるパームオイルは世界中で3千万トンほど生産されており,そのうち半分はマレーシアで生産されています。1トンあたり、3月には1500から1700リンギで推移していたパームオイルの値段がすくなくとも1800リンギ(現在のところ1リンギが32円くらいでしょうか。すると、57600円ですか。)に上がりそうだと報告されています。

大豆油の方は、現在の520ドルから600ドル(1トン)へ上昇するだろうと報告されています。最大の輸出国のブラジルがバイオディーゼルへの転用に熱心なためで,来年期には1割の輸出減,翌年には4割減が予想されています。

日本でも輸入大豆油を原料にする食品や、パームオイル入りの「環境にやさしい」洗剤の値段がちょこっと上がるかも知れません。しかし、値上がり分はパームオイルが1トンで3200円〜9000円というくらいで,「先進国」の人間にとってはパームオイルや大豆油がちょっとやそっと上がっても,どうということはないでしょう。すくなくとも死活問題じゃありません。

ところが、例えば,輸入されるパームオイルや大豆油を食用に頼ってきたバングラデッシュのような国ではどうでしょう。ここ最近は年5%の経済成長を続けていますが,それでもバングラデッシュの一人当たりの平均GDPは1日あたり5ドルほどです。そういう状況の人たちにとっては、1ドル2ドルという「先進国」の人間にとっては屁でもないような微々たる上昇が死活問題になりかねません。

もっとも,食料は十分にある,燃料用の作物を作るだけの余力はあるという人もいます。現在の飢餓問題は現行の流通制度の問題だ。それももちろんあるでしょうが,実際にエタノールの原料に転用されるために砂糖の値段が高騰し、トウモロコシなどの穀物備蓄の切り崩しが進んでいる現状では、あまり説得力を持ちません。ぎりぎりではあったが、これまで通りの生活を維持することが難しくなっているというのに、それはバイオ燃料の生産ではない、食料の流通が間違っているからだと言っても,バングラデッシュのような国では聞き入れられないのではないでしょうか。

バイオ燃料はジャーニー・トゥ・フォーエバーが指摘するように,手作りできる技術であり、地元で原料を栽培したり,地元の廃油などを転用できるという利点があります。正しく使えば、地域社会のエネルギー自立にもつながります。ひとつの農場や村や町、近隣社会という単位で、原料に収穫後の植物廃棄物や廃油を使うなら,バイオ燃料はピーク以降の暮らしで重要な役割を果たすことは間違いありません。

しかし、バイオ燃料を現在のアブラの代替としてとらえ、大規模に精製し,大規模に流通させ利用しようという方向はむちゃくちゃに乱暴です。まず、エネルギー効率の問題があります。現在のような化石燃料を原料とする肥料を大量投入し,化石燃料に頼る農業では,下手すると,生産されるエネルギー以上のエネルギーを投入しなければなりません。

また、バイオ燃料は植物から作り出されるものですが,植物が「再生可能」だからといって,バイオ燃料が無限であるかのように捉えることは間違いです。植物を育てるのには肥料のほかにも、土や太陽や水などが欠かせませんが、太陽以外は有限です。耕作可能な土地は世界でも限られており、これをさらに広げようとすれば森林伐採につながり、表土の流出につながり,ただでさえひどい温暖化をますます促進することになりかねません。水不足は世界各地ですでに深刻化しています。これ以上、傷口を広げずに生産をあげられるとはとても考えられません。

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ガス欠でクルマが運転できなくても,腹がそれなりに膨れてりゃ,「社会不安」なんかにゃならないものです。しかし、腹が減ってくるとどうでしょう。腹を膨らます食料を他人まかせにしていれば、たっぷりガスがあっても,何かある度に不安になるのは仕方のないことです。

「先進国」の人間の快適な生活は、これまでも「途上国」の人間を搾取することで成り立ってきましたが,ピーク以降の暮らし方の選択でも、しわ寄せを受ける人たちがいることを地球市民の一人として、より一層、意識しなくてはならないでしょう。

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