ネイチャー誌の1月26日号にピークオイルを認める論文が出て、そのことが話題になっている(原文はネイチャーのサイトでは有料だが、
こちら(pdf)で閲覧できる)。
論文を書いたのは米ワシントン大学で気候変動プログラムの創立理事、ジェイムス・マレーと英オックスフォード大学のデビッド・キング卿(2000年から07年まで英政府の主席科学顧問)の二人。
論文は「気候変動への対策:原油生産はティッピングポイントをすぎた」というタイトルが示す通り、気候変動の専門学者からの視点になっている。
論文の主要な点は下記の通り。
●経済への波及効果が大きく、しかも直接であるため、化石燃料の消費を抑制することが火急の課題である。
●2005年がティッピング・ポイント(転換点)だった。それ以後、需要は伸び、価格が上昇しているにも関わらず、原油生産は天井(一日7500万バレル)にぶつかったかのように増えていない。
●世界経済が現在立ち直ろうとする経済危機も、原油価格の上昇が引き起こしたものだ。
●経済は、これからおこるであろう原油価格の動きに耐えられない。
●化石燃料依存から脱却することでしか、健全な経済発展は望めず、気候変動にも対応できない。
●化石燃料依存からの脱却は何十年も要するものであり、今すぐ取りかからなければならない。
●問題は原油の枯渇ではない。原油はふんだんにある。なくなるのは、これまでのような安い原油だ。
●原油市場は弾力を失い、わずかな需要の伸び、供給の不安でびくびくする。
●タールサンド、オリノコ原油、深海原油、極北原油、液化石炭なども非在来型原油は役に立たない。
●あまり騒がれなかったが、2008年からの不況は「信用危機」だけが引き起こしたものではなく、原油価格危機もその理由である。
●歴史的に見て、世界の経済成長と原油生産の間には密接な関係がある。
●原油の生産が伸びられなければ、経済も成長できない。
●気候変動への政策取り組みは鈍かったが、ピークオイルに端を発する経済の鈍化が短期的には、気候変動への対策となる。
●原油生産の減少に取り組むことのできない政府は、不況だけでなく、気候変動のもたらす壊滅的な影響をもろに被ることになる。
●各国政府は無駄を省き省エネへ更なる取り組み、石油製品への税率を上げ、クルマの制限速度を下げ、公共交通機関の奨励、再生可能エネルギー源の開発へ税制優遇などにとりかからなければならない。
内容はピークを研究してきた人にとって、何も目新しいことはないし、ピーク問題の最大の問題である食料への言及がないなど不満は残るものの、やはり、権威のある雑誌に、権威のある学者が書いたということはそれだけで、大きな意味を持つ。
また、これまではピークを研究するもののあいだでは気候変動への理解があったのに、一般的に、気候変動を研究するものにはピークへの理解がほとんどなかっただけに、この論文を契機に早急な対応に取りかかることができればいい。ひとり一人のレベルでは、飽食はもうできないことを自覚する契機になればいい。
シェルの地質学者、キング・ハバートが(アラスカを除く)アメリカのピークに言及してから56年。コリン・キャンベルとジャン・ラエールが別な科学誌、サイエンティフィック・アメリカン誌で地球全体のピークに言及してから13年、右肩上がりを夢見て、これまでどおりに石油漬けの暮らしをだらだらと惰性で続けてはいけないことが、ようやく世間でも認められたようだ。