環境意識の高まりで電気自動車(EV)の普及が進んでいる。エコカーと位置づけられ、日本でも充電スタンドの数が増え、災害時の緊急電源としての利用が可能なことから、特に都市部で導入が進んでいる。ガソリンスタンドの閉鎖が進む農村部でも自宅で充電できる利点を生かし、軽トラが発売されるなど、農村部へも浸透しそうだ。自動車企業はEVをこれからの成長分野として位置づけ、開発やインフラの整備を急いでいる。
たしかに運転中は排ガスを出さないので環境への負荷は従来の内燃機関に頼るクルマよりは少なそうな電気自動車だが、生産から廃棄までライフサイクルで見た場合どうなのか。これまであまり、信頼できる研究はされてこなかった。
最近『インダストリアル・エコロジー』誌に発表されたノルウェー科学技術大学の研究によれば、電気自動車は、特に発電に石炭が使われる場合、温室効果ガス排出量はガソリンやディーゼルエンジンのクルマよりも格段に大きくなることがわかった。
電気自動車はライフサイクルでもたらす環境への影響の半分は製造過程で出る。この研究によれば、従来のクルマの製造過程に比べ2倍のインパクトを温暖化にもたらす可能性があるとしている。
特に影響が大きいのはバッテリーで、製造過程で排出される温暖化ガスの35~41%を占める。アルミが多用されるインバーターや冷却装置も温暖化ガスの大きな排出源だ。また、アルミだけでなく銅やニッケルも従来のクルマ以上に必要で、これらはスモッグ、酸性化雨の原因にもなりかねない。
電気自動車の環境決済は、走行を始める前にかなりマイナスからスタートすることになる。だから走行中は「きれい」かもしれないが、ライフサイクルで見れば、従来のクルマとせいぜいどっこいどっこいか、劣ることになると研究はまとめている。
運転中に使用される電力が「クリーン」なものであればともかく、石炭や石油などの化石燃料によるものであれば、電気自動車の環境負荷はさらに大きくなり、場合によっては、従来のクルマの方がよっぽど環境に「やさしい」こともあり得る。
現在ヨーロッパにおける発電エネルギーミックスで、一般にいわれているように15万kmを寿命として計算すると、自動車企業が主張するように、電気自動車はガソリン車に比べ20〜24%、ディーゼル車に比べ10〜14%の温暖化ガス排出量を削減することができる。
しかし、天然ガス火力の場合、電気自動車の温暖化ガス削減量はガソリン車の12%と減り、ディーゼル車とはほとんど変わらなくなってしまう。さらに石炭火力発電はもっと酷くなり、ガソリンやディーゼル車に比べ17~27%も温暖化ガス排出量を増やしてしまう。
電気自動車は長く使い続けるほど、環境への価値が増すことを研究は指摘する。
「20万kmまで使えば、ディーゼル車と比較して17-20%、ガソリン車に比べれば27-29%の温暖化ガス削減になるが、反対に10万kmしか走らなければ、ガソリン車に対して9-14%の削減にしかならず、ディーゼル車とはほとんど差がなくなってしまう」 電気自動車の寿命はバッテリーにかかっている。バッテリーの技術は徐々に向上しており、電気自動車自体の寿命ものびる可能性がある。しかし、従来のエンジンも燃費の改善が進んでいる。ガソリンからディーゼルへの移行も加速するだろう。
電気自動車がはなから環境に「やさしい」と決めつけず、場合によってはマイナスになることも考慮しておかなければならない。導入を考えるならば、まず、どんなエネルギー源が発電に使われているのかを確認する、そして、バッテリーはどのくらいの期間保証されているのか、確認しろと報告書は結んでいる。
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