Tuesday, October 09, 2012

地域通貨/ブリストル・ポンドの実験


イングランド南西部の港町,ブリストルで先月始まった実験が世界の注目を集めている。

イギリス全体でも8番目に人口の多い(周辺の町を合わせ約56万人)都市で,国の法定通貨であるポンドと等価交換される独自の地域通貨,ブリストル・ポンドが発行されたからだ。

経済のグローバル化の進行で,地方で使われたお金はどんどんと域外へ流出してしまう。地元の中小企業は必要な資金が借りられず,地方経済は空洞化する。全国どこに行ってもおなじみのチェーン店が並ぶ構造をどう変えたらいいのか。地域で使われるカネを地域の中で循環させ、地域経済の活性化が地域通貨の目的だ。

地域経済の主権を地元の人の手、企業に取り戻すという地域通貨の理念に共感できても,実際に使うとなるとかなり使い勝手が悪い。日本などでも限られた商店街だけでしか使えないとか、また受け取った側は経理が煩雑になるなどの理由で,なかなか浸透してこなかった。

それはイギリスでも同様で,ブリストル以前にもいくつかの都市で地域通貨が導入されたものの,そうした理由であまり広がってこなかった。BBCによれば,ちょうど3年前にストラウド(グロスターシア)でも,ストラウド・ポンドと呼ばれる地域通貨が鳴り物入りで導入されたが、昨年はわずか4000ポンド(初年の半分)が発行されたに過ぎないという。環境意識が高いとされるストラウドでも,ボランティアの熱意が冷めてくるにつれ,煩雑さから敬遠されているのだろうと分析している。崇高な理念だけではだめなのだ。

その一方で,世界にはたくさんの成功例もある。ドイツのバベリア地方で2003年から流通するキームガウワは昨年55万キームガウワが市場に出回り,取引高は620万キームガウワだった。ユーロと等価交換だから620万ユーロ(約6200万円)が域外に流出せず,地方経済に貢献したことになる。

ブリストル・ポンドがキームガウワのように成功するかどうかはわからないが,これまでの地域通貨にはない特徴を備えていることは間違いなく、他の自治体ににも大きな参考となるだろう。



まず、これまで地域通貨といえば,商品券に毛がはえたようなものが多かったが,ブリストル・ポンド札は精巧な作りで,まるで本物の貨幣と変わらない。実は,「本物」のポンド札より偽造しにくい工夫が凝らされていると言う。ブリストル・ポンドは9月半ばに10万ポンド(約1250万円)が発行され,来年には600万ポンドの取引を目指している。

使い勝手でいえば,ブリストル・ポンドはこれまでの地域通貨のように、加盟する350以上の地元商店や業者で使えるだけでなく,オンライン決済にも使用できる。たぶん,地域通貨では世界で初めてではないだろうか。

市当局が地域通貨を保証し,地元の信用金庫が発行から決済を担当するだけに、美術館など公共の施設で利用できるのはもちろんだが、地方税の納付もブリストル・ポンドでオーケーなのだ。公務員給与の支払いの一部も地域通貨だから、公務員が積極的に使わざるをえない。自治体がこれほど積極的に関わる地域通貨はイギリスでも初めてだろう。

金融危機に際し,中央銀行は通貨の量的緩和政策をとりがちだが,経済弱者を救うことはなく,経済中枢はともかく,地方経済は疲弊するだけだ。グローバル化した経済に対し,地方自治体は無力だと思われがちだが,ブリストルのように地域通貨の流通に積極的に関わることで,地場の中小企業を支え,地方経済の活性化を促すことができる。

それが五井平和賞を受賞した『幸せの経済学』の監督、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジやパーマカルチャーの創始者,デビッド・ホルムグレンが言うような地域経済の再建の一助になることは間違いない。

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