Thursday, March 01, 2007

ただいま/good possums are dead ones.

ただいま。

出かける前は結構威勢良く何ヶ月かふらふらするつもりでいたんですが,早々に足を洗い、ケツをまくり,数日前に帰還しました。

旅に出る前から抱えていた肩の痛み,おとなしくしていれば自然に治るかなって期待していたんですが、旅行中もずっとつきまとわれ、しかも、所期の目的をほぼ達成したので、惰性でぶらぶらしていても仕方がない。シドニーの港を出発してから2ヶ月ほど,帰ってくることにしました。

ご無沙汰です。
この間にニュー・ジーランドの2つの島、浅く広く,見てきました。そのうちひと月は相棒と一緒にクルマを借り,北の果てから南島の南端まで走りました。石油減耗時代の住処を早急に見つける,気候ゲテモノ化の時代に救命艇として使えるような場所を探すのが目的だというのに,毎日毎日,化石燃料をばんばん燃やして一体何をやっているのだろう,本末転倒もいいところじゃないかと考えることもしばしばありました。ホルムグレン流に言えば「化石燃料の創造的な使い方」、まあ時間も限られていることだし,島々の大枠を把握しないことには適地も見つからない。そんな言い訳をしながら,都会はあっさりと走り抜け,なんでもない町や村に何泊し、あちらからこちら,気がついたら7千キロ近くも走ってました。

戻ってくればオーストラリアでは,やはり「水不足」が深刻化しています。大陸一の大河,マレー・ダーリン川も涸れ,2月19日付け,農業資源経済局(ABARE)の発表によれば,夏作物の生産は昨年比で6割近くの減産(190万トン)とのこと。特に水を大量に必要とする綿花は42%減(25万トン)、米は9割減(10万6千トン)です。とてもじゃない、日本などへ米を安く輸出することなんかできなくなりますね。もともと,オーストラリアは米を作れるような環境ではないことは以前から指摘されていますが、ここにきて、それが一層明らかになりました。記録的に歴史的で未曾有の干ばつのためとはいえ,水がなければ食料は育たないし,バイオ燃料用の植物も育たないことを、あらためて思い知らされます。

折からニュー・サウス.ウエールズでは3年に一度の州議会選がたけなわ。水は州政府の管轄なので,選挙でも大きな争点になっています。今年後半と予想される連邦選挙でも「水」が繰り返し繰り返し議論されることは間違いありません。

昔々、南極などとゴンドワナ大陸を共に構成した仲とはいえ,タスマン海のあっちとこっち,大きな違いです。

もっとも自宅の近辺は不在中にかなり雨が降ったようで,雨水タンクはすべて満杯。3万2千リットルの水がちゃっぷんちゃっぷんしてます。庭も草がぼうぼうに伸び放題。しばらく手を入れなくても大丈夫かなと出かける前には期待していたのですが,いやはやとてもじゃない。日陰を選びながら、毎日毎日,草刈りに没頭しています。しばらく出会わなかった蛇にも早速遭遇。きゃあ。

雑草といえば、ニュージーランドでもエニシダやハリエニシダなどおなじみの連中がばんばん繁殖してました。プランテーションでは、これまたおなじみのラディアタ松やらユーカリなんかが植えられていて,しかも季節も似通っているんで,一見,あまり違和感のない光景でした。しかし、緑のベールを一皮めくるとまったく見たこともないような木や草,シダが茂ってます。何しろ、生息する植物の8割はこちらでしか見かけられないものなのですから、まるでパラレルワールドにさまよい込んだような気分。
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(右手に見えるのがサザン・ラタ。後ろに見えるのはフランツ・ジョセフ氷河)

ラタの木がちょうど真っ赤な花を咲かせていて,それはそれは見事な眺めでした。ラタは空中高く,他の木の枝のくぼみに芽を出し,それからヤドカリする樹の幹に根をくねくねと地上に降ろしていく寄生樹。やがては寄生した木と混じり合い,区別がつかなくなってしまうものもあります。ぐちゃぐちゃに複雑な混合は実に見事。

寄生と言えば,富士山を一回り小型にしたようなタラナキ山の麓の森も見応えありました。山自体も霊峰って雰囲気を備えてますが,麓の森は降水量が多いからなのか寄生植物がうじゃうじゃ垂れ下がり、すっかりゴブリンの森の様相でした。
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でも、目にしたニュージーランドの樹木で一番感動したのはカウリ。カウリの木は白人入植後、建材用などに乱伐されたおかげで,群生地は北島の西海岸にある保護地など、わずかになってしまいました。あんまり,観光はする予定じゃなかったのですが、通りがかりだからと言いくるめ、樹齢何千年という大樹が茂る林を見てきました。

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圧巻はやはり「森の王」と呼ばれるタネ・マフタ。樹齢2千年以上という木はまるで丸山健二の「争いの樹」の主人公のように、周りの様子,人間の様子を眺めてきたのでしょう、ものすごいオーラを発していました。神木ってのはこういう樹のことを言うのでしょう。神がかったところがあります。いやあ,ものすごい。
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(神々しいタネ・マフタに見いる人たち)

こちらは降水量も多く,土地も肥えているためか、ユーカリやらアカシアなどオーストラリア原産でなじみの深い木もぐんぐんと伸びてました。原産地では見られないように,のびのびとすくすく育ってます。適地で巨木に達しているのをあちこちで目にしました。たとえばユーカリのひとつにアイアンバーク(鉄の樹皮)と呼ばれるものがあります。名前の通り、材質の堅くなる木で、線路の枕木やら農場のフェンス用材などに使われます。ところが、同じ木なのにこちらでは生育が早いため,あまり堅くならない。オーストラリアの過酷な環境では成長が遅く,じっくりと密度がつまり、鉄のような堅さになるのに、こちらではそうならない。同じ種類の木なのに生育環境が異なると,特性も変わってしまう。そんな話も聞きました。

オーストラリア原産の生物がニュージーランドに異常適応し大繁殖している例にはポサムがあります。

この有袋類、生まれ故郷の彼の地では保護獣に指定されているというのに,タスマン海のこちら側では1837年に毛皮用としてもち込まれて以来,大繁殖。現在ではその数,7千万匹と見積もられています。

原生地のオーストラリアにはポサムをエサにする動物がいたり,樹木にも自衛用のとげがあったり、撃退用に毒を出したり、対ポサム用のメカニズムが長年の間に備わっているため、ポサム人口も低く保たれてきました。しかし、数百年前にマオリが犬とネズミを持ち込むまでは四つ足動物がほとんど存在せず、飛べない鳥やら滑空するだけの鳥やら,信じられないような連中が群生する「鳥の国」にポサムの天敵はいません。

しかも原産の樹木には対ポサム用の免疫がないときて、ポサムは大繁殖。人間や羊の数よりも多くなってしまいました。ポサムは一匹あたり、年間で100キロの植生をエサにします。ということは毎日毎日,全国で2万トン以上の森林、果樹などがむしゃむしゃと食べられていることになります。これじゃ,木は殺されちゃうわ,木の実や芽や葉をエサにする鳥もひもじくなる。巣が荒らされ,卵やひながやられちゃうこともあるそうです。

蛇もいない,毒蜘蛛もほとんどいないこの国で、自然の脅威をもろに体現する動物,大害獣として嫌われるのも当然で、ニュージーランドに移り住んで庭いじりをするなら,ポサム対策をどうするか,真剣に考えなければなりません。

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猛スピードで走るクルマの犠牲になり、路上にくたばる動物をロードキルと呼びますが、オーストラリアではもっぱらカンガルーやワラビ,ウォンバットなどでポサムはほとんど見かけません。これがニュージーランドとなると,ウサギやハリネズミと一緒にポサムがクルマにはねられ,ごろごろと道路に頓死しています。

ポサム対策のひとつの方向はフェンスで囲うことです。農場や果樹園ではポサム用の柵を施しています。しかし,国立公園や林となるとそうもいかず,たくさんの毒餌や罠が仕掛けられています。北島で泊めてもらった家の果樹園にも何カ所か、罠がしかけられていました。農民は猟銃をもち、ポサム狩りにも出かけるそうですが、滞在中,ちょうど毒餌を撒くというので,作業につきあいました。

急斜面,原生樹木のおい茂る林のなか、よく見ると、あちこちの樹木にむしゃむしゃとポサムに食べられたあとがあります。ポサムの通り道を確認すると,そこにシアン、青酸化合物の毒薬をピーナッツバターに混ぜて置いていきます。この毒薬,人間や他の動物にも効果があるだけに,購入するにはライセンスが必要ですが、かなり簡単に手に入るようです。それほど,ポサム駆除に手が足りないという台所事情なのでしょうか。最後にポサムをおびき寄せるため,カレー粉を周囲に撒きます。カレーの臭いに目がないのだそうです。

で、つかまえたり殺したポサムをどうするか。たいていのところではそのまま,死骸を腐らせているようですが,毒殺したものはともかく,銃殺したものは犬のエサになります。中国では食用にするということですが,この国ではまだ,ポサム料理は開発されていません。料理はともかく,もともと,毛皮用に導入されただけに,ポサムの毛皮を買い取る業者もおり、皮をはぐ専門の器械なんてのも売られています。値段の方は皮はぎ器ではいだ毛皮は一匹あたり6ドル,手ではいだものは4ドルくらいで引き取るそう。銃殺した皮には傷が残るため,毒殺されたものより値段は安くなるとのこと。

毛皮製品だけでなく,この毛皮と羊毛を混ぜた素材で編んだセーターや帽子なんかも見かけました。それなりに人気はあるようですが,もっともっと小遣い稼ぎにポサムをつかまえる,そういう人が増えればポサムの数は減らすことができるかもしれません。もっとも、毛皮産業の最盛期でも年間の捕獲数は2千万匹。ポサムは毎年毎年出産するので,とても追いつきません。

もっとも、衣料の値段が急騰し,近場で簡単に手に入るポサムを着るしかない。そんな状況になれば,現在は大害獣と見なされるポサムも貴重な資源に見えることでしょう。そうなれば別ですが,現在のところは,これといった決め手となる対策がないようです。

さてはて、ポサム対策に頭を悩めなければならないような住処は見つかったのでしょうか。
それはまた,別の機会に。

1 comment:

Anonymous said...

お帰りなさい。
それはそうと、ガワールの崩落が始まったみたいですよ。