Monday, February 28, 2011

TPPについて私が知っている二、三の事項(3)/Deux ou trois choses que je sais d'elle(3).

壊滅的な地震に襲われた当日、クライストチャーチではアメリカ・ニュージーランド評議会(US-NZ Council)とよばれる団体が主宰する両国の第4回パートナーシップ・フォーラムが開かれていた。21日からのフォーラムに米側からはデビッド・ヒューブナー米大使(1984年から85年、柿澤弘治のスタッフをつとめた)、カート・キャンベル国務次官補(東亜太平洋担当)、ブッシュ政権で通商代表を務めたスーザン・シュワブエヴァン・バイインディアナ州知事(元上院議員)、リチャード・アーミテージクレイトン・ヤイター元農務長官(親ブッシュ政権)、クリス・ヒル元イラク大使/元国務次官補(東亜太平洋担当)、国土安全保障省のマリコ・シルバー次官補など、このほかドン・マンズーロ下院議員など8人からなる議員団も参加したが、22日の朝には現地を離れたため、難を逃れた。
ニュージーランド側からは外務貿易省の実務のトップであるジョン・アレン事務次官(元NZポストの最高責任社)などが参加していた。ニュージーランド側の主催者は日本・ニュージーランド・パートナーシップ・フォーラムなどを通し、日本の経済界とも交流の深い現地経済人やロビイストたちだ。
地震の起きた時、フォーラムの出席者たちは市内8ヶ所に分かれて「昼食会」の真っ最中だったが、全員自力で指定されたラグビー場までたどり着き、空港近くにある南極センターにバスで輸送され、その日のうちにNZ空軍のC-130ハーキュリーズ輸送機でウェリントンに避難した。要人とはいえ、被災者の救助に回されるべき人員や資源が回されたのではないかと疑問視する声もある。

このフォーラムへの参加をボイコットし、難を逃れたのは労働組合協議会(NZCTU)のヘレン・ケリー議長だ。ケリー議長が招待をことわった理由は、TPP推進がこのフォーラムの大きな目的だったからである(ちなみにニュージーランドなどでは普通agreement、協定という言葉が付いてTPPAと呼ばれる)。労組はTPP交渉の不透明さなどを理由に、すでにかなり批判的な立場を取っている。このようにニュージーランドでは交渉の不透明さ、そして主権侵害がTPP反対の大きな理由になっており、問題点を指摘する『No Ordinary Deal』という本も出版されている(農文協から翻訳出版が予定されている)。「ニュージーランドは非売品(NZ Not for sale)」という反TPPキャンペーンが広範に繰り広げられており、20日にやはりクライストチャーチで「TPPを学ぶ会」が開かれていた

これらの心配を打ち消すかのように、US-NZ評議会のスティーブ・ジャコビ議長は地震の前日に放送されたラジオNZとのインタビューで、TPP交渉が秘密裏に行われている理由をこう述べている。
「交渉内容をオープンにしてしまえば既得権を持つ連中が反対する。家屋の売買や雇用契約はオープンでは行われないだろう。WTOの交渉はすべてオープンに行われた。どういう結末になっただろう。だから、TPPの交渉は水面下で行われているのだ」

また、22日の朝、ジャコビはTVNZの番組に出演し、その中で外国の企業や投資家が主権国により商活動が侵害された場合、政府を提訴でき、勝訴すれば損害賠償を求めるることができる条項が含まれるだろうと述べている。しかし、ジャコビは、同じ条項がすでに中国との自由貿易協定の中にも含まれており、何も新しいものではない。その心配は取り越し苦労であると反論している。
これは国対投資家の紛争解決条項(ISDS)のことでNAFTA11章とも呼ばれる。特に医薬品や食品管理、知的財産について、主権が失われるのではないかという危惧がある。例えば、条約締結国が禁煙を決めればフィリップモーリス社などが訴えることが可能であり、ペットボトル飲料の販売を禁止すれば、コカコーラ社などが商業活動を阻害されたと訴えることも可能だと言われている。

ニュージーランドは2005年にブルネイ、シンガポール、チリとの間で環太平洋協定(TPA)を締結したメンバーであり、TPPについても積極的な推進国のひとつと見られている。しかし、昨年12月に暴露されたウィキリークスの米外交電によれば、主席交渉官、マーク・シンクレアはそれほど乗り気ではないようにも伝わってくる。ウィキリークスの暴露した外交電によれば、去年2月にシンクレアは米側に「TPPはニュージーランドにほとんど何の利益ももたらさない」と漏らしたとされている。もし「報い」があるとすれば、日本や韓国の農産物市場に圧力をかけることぐらいであり、それも長期的にみてのことだと述べたとされている。
「ニュージーランドの企業はアメリカ市場に参入できることになるとバラ色の夢を描いているが、それは現実とはほど遠い」
つまり、TPPはほとんど誰の利益にならないものであることを主席交渉官が認めているのだ(もちろん、これはアメリカ大使館の外交官の印象であり、正確だとは限らない)。

そろそろ、交渉の内容が明らかにされるべきではないだろうか。日本ではTPPが農業の問題に特化されて報道され、議論されがちだが、そもそも、この交渉が有権者から秘密裏に行われていることの是非を問うべきだろう。

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