Wednesday, February 23, 2011

リビア情勢分析

チュニジア、エジプトなどを席巻する中東北アフリカ(MENA)諸国の情勢不安はついに産油国にもおよび、世界を震撼させようとしている。
カダフィ独裁体制が何らかの形で事態を収拾することができるのか、それとも体制の崩壊、民主化などといった形で状況がさらに流動化するのか、また、リビアより大きな産油国にも影響が波及するのか、世界は固唾をのんで見守っている。
リビアの政情不安を独裁対民主という構図でとらえる報道は多いが、MENA諸国で広がるデモの直接の原因は食料価格の高騰である。リビアの人口は2000年以来23%増えており、ほかのMENA諸国同様、25歳以下が人口の半分近くを占め、腹が減り、職のない連中が直接行動に出ていることが容易に想像できる。だから、たとえどんなに民主的な政権が生まれても、食料の高騰が収まらず、空きっ腹をなんとかしない限り、ふらふらと足下が定まらない状態は続くだろう。

こんなことを言うと「民主主義者」からはひんしゅくを買いそうだが、非常事態では独裁政権の方が混乱を効果的に収拾できることもある(例えば90年代のキューバ)。独裁は悪い、民主政権なら何でもいいというこれまでの枠組みが今、我々が足を突っ込みつつあるピーク以降の非常事態がだらだらと続く時代には通用しないこともある。

リビアにはアフリカ最大のアブラの埋蔵量があり、一日あたりの生産量は140〜170万バレルでOPEC第7位。それほどの量ではないが、需要と供給の逼迫状態が続く状態のポストピーク時代に見逃せる量ではない。

Energy Export Databrowserより転載。
開発生産の担い手は外国企業で、早くから(1959年)リビアの石油開発に加わったイタリアのエニ社が最大の生産(50万バレル以上)をあげている。輸出もイタリアなどヨーロッパ向けがほとんど。ヨーロッパの指標であるブレント原油価格は2008年以来最高のバレルあたり107ドルに達した(北米の指標であるウエスト・テキサス・インターミディエイトは85ドル前後であり、ブレントとの間の価格差は史上最高の20ドル以上に開いている。この考察はまた後日)。
NYTによれば、エニ社を始め、外資系企業はすでに最低限必要な人員をのこし、家族なども避難している。リビアの原油生産が落ち込むのはやむを得ず、原油価格はさらに上昇するだろう。
もちろん、OPEC諸国にリビアの穴を埋めるだけの能力があり、その能力を使えば話は別だ。しかし、ブルームバーグによれば、OPEC諸国からの昨年12月の輸出は前月比で2%減。最大の産油国であるサウジは生産は増加し、ここ2年最高のレベルに達したにも拘らず、輸出は以前にも言及したように国内需要の伸びなどで前月に比べて4.9%減っている。だからOPECがリビアの穴埋めをすることは難しいかもしれない。
リビアショックが他の産油国に広まらなくとも、原油価格は上がりそうで、それが食料価格の高騰にも拍車をかけそうで、腹を空かした民衆の示威行動はMENA諸国だけでなく世界に広まっていくかもしれない。
ピークの影響は玉突き状に世界を震撼させている。

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