Tuesday, December 12, 2006

安い石油時代のたそがれ/The end of cheap oil

現役の政権担当者で、オイル・ピークの存在を公式に認める人間はあまりいません。
国政レベルとなると,アオテロアのヘレン・クラーク首相くらいでしょうか。現役の政権担当者には、それなりの政治的な意味がともなうので,往々にして,こういう発言ができないものです。
そういう首相のもとですから、エネルギー相(環境問題相兼任)のデイビッド・パーカーがピークと気候変動について、かなり突っ込んだ話をしていること自体は驚くことではないかもしれません。でも、「いずれピークに達することは間違いなく,政策的な見地からすれば、与えられた時間は限られています」って、まさにその通り。

タスマン海のこちら側,気候変動にようやく重い腰を上げ,足を引きずるように場当たり的な策を発表するだけの政府のもとで暮らしていると、パーカー大臣の言葉は輝いて聞こえます。現役の大臣の発言にはひとつひとつの言葉に責任をともなうわけで、軽々しいことは言えません。それでも,ここまで踏み込んだ発言を期待することができるんだ、そういう希望の文脈も含め、下記にパーカーのスピーチを10月30日に発表された政府発表のテキストから全訳します。

この発言は南島にある2つの都会,クライストチャーチとダニーデンの間にある人口303人(2001年の国勢調査)の小さな村で開かれたエネルギー・フォーラムにおけるものです。日本初のピーク専門ブログの「ん!」ですでに一部紹介されていますが,アオテロア政府のサイトより,全文,下記に紹介します。

アオテロアへの期待を過度に膨らませることは慎まなければなりませんが,日本やオーストラリアでも現役の大臣がこう言う発言をできるようになると,少しは世界も変わるのではないか,そう思いませんか?

パーカーのスピーチのあとですが、11月4日に、南島のリグナイト(泥炭)を開発すれば、これから300年間は国内の交通燃料を賄えるという内容の報告書が経済開発省から発表されました。その報告書は「これを開発すれば,他の国で炭化水素燃料が枯渇したあとでも我が国には燃料が十分残っているだろう」と報告していますが,それについて、パーカー大臣は「リグナイトがあることはすでにわかっている。しかし、この報告書は経済というきわめて狭い見地からのものであり、二酸化炭素排出など環境への影響を考慮していない」と開発に否定的な見解を発表しています。

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今晩ここで話す機会を与えていただき,ありがとうございます。私は、メディアを通じあなた方の団体の活動を注視してきましたが,将来のエネルギー需要、その供給をどうするのか、そういう議論にイニシアティブとリーダーシップを発揮してきたことに感心しています。

エネルギー担当大臣として、私には、国民が手頃な価格でエネルギーを獲得できるようにする役目があります。同時に、気候変動担当の大臣として、エネルギー生産、輸送、工業や農業から排出される温暖化ガスを減らす役目があります。これら、私に課されたふたつの役目は、今日ここで行われる議論に関連します。

たくさんの質問があるかと思いますし、私も皆さんの意見を拝聴したいと思いますが,まず,この問題に関する政府の立場を説明させてください。

●オイルピークについて
皆さんの一番の関心はオイル・ピークと、石油がますます高くなるにつれ、社会,特に皆さんの暮らす地域社会はどう対処すればいいのかということだと思います。

オイルピークというのは、通常原油の世界的な生産がピークに達する時のことを指します。世界的な原油生産がピークに達してしまえば、原油の日産は時間とともに減少していくと予想されています。

ピークがいますぐに訪れるならば,大変なことでしょう。私たちの社会は何十年にもわたり、アブラと天然ガスを生活の中心要素として、その消費を増加させてきました。最近の需要増加は、著しい速度で工業化する発展途上国(特に中国)の需要の伸びに拍車をかけられてきました。

通常原油が生産ピークに達するのが来年のことなのか,それとも、これから十年から二十年のことなのか,議論の余地はあります。しかし、いずれピークに達することは間違いなく,政策的な観点からすれば、どちらにしても、与えられた時間は限られています。

原油価格の上昇で油田の探査は刺激され、これまで非経済的と見られた油田の生産が可能になります。価格の上昇やテクノロジーのおかげで、天然ガスや油母頁岩(オイルシェール)、亜炭などからも液体燃料の抽出が進むでしょう。これらの非在来型のアブラ源は莫大な規模になります。通常原油がもたらした「安い」アブラはピークに達するでしょうが,化石燃料全体についてみれば、世界にはこれから二、三十年くらい、使える量がたっぷりとあります。

●エネルギー安全保障
もう一つの懸念は、エネルギーの安全保障の問題があります。国際的な観点からすると、それはアブラの供給が中断する懸念を指します。世界の石油生産の多く、そして、これまでに発見された石油埋蔵のほとんどは,中東など地政学的な心配のある地域にあり、石油供給の中断はあり得ることです。

「安い」アブラのピークとエネルギー安全保障のおかげで、アブラの供給が途絶える、値段が上昇することを心配する人もいます。政府はアブラの安定供給に対する脅威について、懸念を抱いてはいますが、アブラがなくなるということは考えていません。

アブラなどの化石燃料はこれからも手に入るでしょうが、これまでのような使い方を続けていくことは望ましいことではありません。

なぜでしょうか。

●気候変動
政府にとり、より深刻で差し迫った問題は気候変動であり、だからこそ、我々は国を挙げて温暖化ガスの生産を減らすことに,積極的に取り組まなければならない理由です。
もし,世界が温暖化ガス排出にブレーキをかけなければ大変なことになる、海外のエコノミストが警告するのをつい最近,耳にしたかもしれません。(註:スターン報告書のこと)

ニュージーランドのように農業に基づく経済は、変化し不安定な気候に特に経済的な影響を受けます。気候変動は、かんばつが起こりやすい地域ではより多くのかんばつを引き起こし,洪水が起こりやすい場所ではさらなる洪水を引き起こします。水と大気に関する国立研究所による調査によれば、ニュー ジーランドの東部のほとんどで、これまでは二十年の周期だったかんばつが2080年代までには五年間隔になるだろうと予想されています。かんばつが時には二年連続で起こることも予想され,そうなると、回復する時間は与えられません。

最近では1997年から98年にかけ、大きなかんばつに襲われましたが、経済への影響は10億NZドルに上りました。2004年2月の洪水の損害は3億ドル以上に上ると見られています。こういった種類の出来事がずっと頻繁に起こるならば、我が国の農業はどうなってしまうのか、とても想像することができません。気候変動は、我々の世界が持続可能な生き方をしていないことを示す兆候です。それは私たちが取り組まなければならない問題であり,ニュージーランド政府はそれに取り組む所存です。

●持続可能なNZ
この週末、党大会において(クラーク)首相が持続可能性を強調する発言をしたのを耳にしたかもしれません。

政府は21世紀における社会民主主義の中心的な価値は持続性にあると考えており,ニュージーランドがその実現の先頭に立つことを望んでいます。

持続可能な生き方をし,温暖化ガス排出を減らすためには、再生可能エネルギー資源を最大限に活用しなければなりません。

●エネルギー効率
これは、我々の手にするものを浪費しないことを意味します。長い間、ニュージーランドでは電気が安かったので,倹約する必要はありませんでした。

しかし、マウイの天然ガスが枯渇し、発電コストは上がっており、そして、再生可能なエネルギー源を最大限に活用するためには、我々はできるだけ効果的なエネルギーの使い方をしなければなりません。

●ニュージーランドのエネルギー戦略
将来のエネルギー需要を考える際、大切なことをまとめたのがニュージーランドの「エネルギー戦略」です。来月発表される戦略の草案は、どのようにしたらエネルギーをより効果的に使うことができるかについて検討しています。

どこへ投資し,どんなテクノロジーに投資するのか、個人としてはどんなものを購入し,どんな生き方をするのか,「エネルギー戦略」では態度の変化を検討します。

「エネルギー戦略」は行動やプロセス、建物やインフラ基盤のアップグレード、デザイン、場所と管理について、しっかりとエネルギー効率を考慮するものです。

この一環として、政府では国のエネルギー効率と省エネ戦略の見直しを進めており、それはエネルギー戦略草案を構成するものとなります。

草案の焦点は、エネルギー効率を高めることであり,再生可能なエネルギー源の使用の促進です。

すでに発表されたり、開発中のイニシアティブのほとんどが、相乗的な利益を生み出すということは大切なことです。

たとえば、断熱されて暖かな家ならば,暖房費が安くつきくだけでなく、そこで暮らす人は健康なので、医療費もあまりかかりません。自動車もエネルギー効率が高く,ちゃんと整備されていれば、燃費は安く,公害も少なく,健康的な環境が保たれることになります。

「エネルギー戦略」の核心は、活力ある経済を維持するために必要なエネルギー資源の信頼できる供給にあります。

「エネルギー戦略」の草案では、エネルギーのインフラへの投資に関する不確実性に取り組むでしょう。

長い目で見ると、気候変動に関する政策とそれに関する規制などについて明確にすることが、時間の面からも,費用効果の点からも、効果的な投資をしやすくするでしょう。

同様に、エネルギー戦略がニュージーランドの持続可能なエネルギー社会への移行段階において、再生可能エネルギーや地熱エネルギーがどんな役割を果たせるのか、はっきりさせておくことは重要です。

温暖化ガス排出は、早晩、その代価を支払わなければならず、排出を低減させる方向に向け、生産や消費活動、設備投資を変える誘因になるでしょう。

「エネルギー戦略」は、温暖化ガスの排出を増やすことなく、エネルギー需要に応ずることができる可能性と手段を考慮するものです。

例えばカーボン捕獲と貯蔵など、きれいなテクノロジーが現実的で経済的になるまでは,すくなくとも、これからの世代にとり、再生可能エネルギーを選択することが好ましいことを示す必要があります。

したがって、「戦略」は再生可能エネルギーの開発を支持するため、価格の点でも競合できるよう、様々なオプションを考慮します。

「戦略」では、炭素の排出を低減したり、無排出の代替開発の障害を克服するため、確実性をもたらし、エネルギー革新のためによりダイナミックな環境を提言します。

●バイオ燃料
たぶん、皆さんの最大の関心事であるかと思われる問題、交通燃料の代替について、少し,話そうかと思います。明らかに、田舎では、公共交通機関は限られており、出かけたり、商売のため,近所付き合いの手段として,必然的に、クルマは重要であります。ここのような地域では、交通用燃料の値上げは、したがって、非常に応えます。

交通セクターから排出される温暖化ガスを減らさなければならないという火急の理由もあります。つい先頃,私はエネルギー見通しに関する報告書を発表しました。報告書では我々が政策基準を変えなければ、運輸から排出される温暖化ガスはこれからの25年間に35パーセント増加するとしています。

バイオ燃料の重要さはここにあります。ご存知かもしれませんが、運輸燃料に占めるバイオ燃料の最低割合をどこに定めるべきかついての提案受付をちょうど閉め切ったところです。政府の提案は2012年までに、2.25パーセントを最低限とするというものでした。

バイオ燃料は輸入することもできますが,国内の農業セクターから最低ラインを満たすために必要な原料は十分手に入るでしょう。

ニュージーランドには食肉産業が生み出す獣脂が十分にあり、それをバイオ・ディーゼルに転換するなら,ディーゼル需要の5%近くを満たすことができます。また、現在でも酪農産業から生み出される乳清をエタノールにすることで、ガソリン需要のおよそ0.3%が満たされています。乳清などの副産物からは、もっとたくさんのエタノールを製造することができるでしょう。

これらの再生可能エネルギーなどに運輸燃料を多様化することは、輸入された石油への依存を減らし,大気の質を改善することにつながります。

もちろん、温暖化ガスの排出も減らすことになります。現在提案されているような最低ラインが満たされ、バイオ燃料が化石燃料を置き換えるならば、京都議定書に義務づけられた100万トン以上の二酸化炭素の排出を減らすことは苦もなく達成できるでしょう。これは、第一次京都議定書に規定される政府責任を履行することになり、1600万ドル以上の節約に相当します。

さらに重要なことは,これが出発点にすぎないということです。ひとたび立法上のフレームワークと基盤が確立されれば,バイオ燃料が運輸燃料に義務づけられる最低限のレベルを上回る量を補うことは十分期待できることです。

●結論
私たちの目の前には大きな挑戦が待ち受けていますが、私たちはその取り組みに全力を注いでいます。ニュージーランド国民すべてがそれに参加しなければなりません。

その意味で、あなたがたのようなコミュニティが、これらのエネルギー問題について、一生懸命に、自分たちでなんとかしようと取り組もうと努力していることはすばらしいことです。

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