Tuesday, November 07, 2006

人生の達人に生き方を学ぶ/an old sage.

3冊まとめての3冊目は「共生共貧:21世紀を生きる道」です。
著者の槌田劭は自分の好きな作曲家,アーヴォ・ペルトと同じ年,1935年生まれだそうですから,今年71歳になる人生の大達人です。もともとは京大などで教えていた科学者ですが、1973年に第一次オイルショックの経験から,地元京都で「使い捨て時代を考える会」を結成,リヤカーを引いて古紙の回収から生活の見直しを始めた脱石油時代型暮らしのパイオニアです。
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槌田には、これまでにインタビューなどで2度ほどお目にかかったことがありますが,身のこなしの軽い仙人のようなひょうひょうとした人です。この本は2年前に京都で話を聞いたとき、1981年出版の「共生の時代」(樹心社)と一緒にいただき、それ以後,何度も何度も,繰り返し読んでいます。

なぜ,繰り返し読むかといえば,ひとつは彼が実践者であるからです。スローなんとかって言葉がはやりになっており、ねこもしゃくしもスローなんとか,パーマなんとかなんて口にします。しかし、現実にそれを実践する人はあんまりいません。槌田の場合はそんな言葉がもてはやされる何十年も前から、ちょうどパーマカルチャーがオーストラリアで編み出されるのと同じ頃から「使い捨て時代」とオイルピークを見据えた暮らしをしています。

この本はオイルピークの歴史的な瞬間を意識する人,自然の限界を悟り,その中で慎ましやかな暮らしを模索する人,パーマカルチャーをありがたがる人間にはまず読んでほしい本です。自分も彼の教えている京都精華大学へ学びにいこうかなんて思ったことは一度や二度じゃありません。

オイルピークへの対策を考えるときには大きく分けて2つの道筋があります。

ひとつは現状維持派。例えば,現在うちに2台のクルマがあるとします。ピーク以降これを維持するためにはどうしたらいいだろうと知恵を巡らせるのが現状維持派です。アブラの入手が難しくなり、値段が高くるなら,何か代替になる燃料はないか,エタノールか,バイオ燃料かそれとも電気自動車かハイブリッドか。そう思いを巡らせるのが現状維持派です。

もうひとつの道筋は、これを契機にこれまでの暮らしぶり,現状を見直す方向です。現在,2台あるクルマは果たしてそもそも必要なのだろうか。そう考えてみることです。もし、1台でもやっていけるなら,問題は半分解決したことになります。もし,多少の不便をしても、2台ともなくてもやっていけるなら,ヴォアラ,もう代替え燃料をどうしようかなんて悩む必要はなくなります。

最近も,インドで暮らしてる友人が訪ねてきて,トイレットペーパーの話になりました。73年のオイルショックのときにはアメリカだけでなく,日本でもうわさ話からトイレットペーパーのパニックになりました。みんながみんな、インド人のようにトイレットペーパーを使わない暮らしをしてりゃ,あり得ない話だよね。うーん。そのとおり。けつを拭くのに紙をつかう、トイレットペーパーが必要だ,そういうアタマがあるから、それが不足すると耳にすると大変だとパニックになる。でも,はなっから,そんなもの、必要都市内生活をしていればパニックになりようがありません。

とは言っても,人間というものは、楽をしたがるもので,いまの便利な暮らしが維持できるなら,むざむざ投げ出そうとは考えないものです。なるべくなら,いまの暮らし方を維持したがるものです。トイレで紙を使わない生活を夢見ながら,未だに自分もトイレットペーパーを使っています。しかし、オイルピークは歴史の必然です。必ず,訪れるものです。

そして、ピークの本質は食料問題です。そこまで理解しても,自分などは,大変だ、なんとかしなくっちゃ、自分の食べる分くらいは自分で作るようにしよう。そう考えるものです。

ところが槌田はこう言います。
「世に”常識”とされていることが正しいとは限らない。非常識と思えることが真実だということもある。食をめぐる常識には,そのようなことが少なくない。二十一世紀には環境と資源の限界に直面して,飢える未来が待っているだけに、食をめぐる常識には注意したい」。

そして、
「栄養水準を熱量ではかり,成人男子が一日に必要な熱量は二千四百キロカロリーなどと言われる。しかし,生活の仕方の違いや体質によっても異なるものだ...機械的な数字でいのちの働きを表すことは,命の強靭さや弾力性を思えば無理である。日常生活のあり方や体質改善の努力によっては,どこまで摂取カロリーを減らして大丈夫なのか,私にはまだわからない」と告白します。

が、自身の断食をやった経験から,半分でも暮らしていけるんじゃないか。槌田はそう説きます。食糧難時代がきても,需要そのものを減らせばへっちゃらだ、と。そっちへ向かうのです。一日千キロカロリーでやりくりできれば,従来の食糧供給で二人の人間を養うことができる。槌田はそう言います。そういう言葉を目にすると,何のかんの言っても自分を含めて,人間ってのは現状維持派なんだなあと認識します。

槌田は自分自身のエネルギー需要をどこまで削れるか,それをまるで楽しむかのように、苦しそうな様子もなく,軽々とやってしまいます。すごいなあ。いい加減な自分には、断食はとてもできそうにありませんが,少しずつ、食べる量やエネルギー消費を減らしていこうと心がけています。そして,できるかどうかわかりませんが,いつの日か,仙人のような槌田のいる場所にたどり着ければいいなあと思います。

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