Wednesday, August 24, 2011

リビア(3)


(リビアの原油生産)

反カダフィ勢力がリビアの首都トリポリを制圧したというニュースが流れているが、まだ情勢は流動的なようだ。ボリビアのチャベス大統領が指摘するように,Nato軍のリビア空爆は石油狙いに間違いない。

内戦以前,リビアの原油生産(日産160〜180万バレル)は世界全体(8800万バレル)の2%程度を占めていた。量としてはたいしたことはないが,ボリビアのオリノコ原油やカナダのタールサンドなどとは比較にならないくらい質がいい。精製に手間のかからない「軽くて甘い」アブラで、イタリアを中心にヨーロッパに輸出されていた。これが内戦開始からほとんど出回らなくなってしまった。ヨーロッパ(Nato)が他の国や地域には目をつぶっても、リビアに積極的に介入したのはこういう事情がある。


(サウジアラビアの原油生産。二つのグラフはスチュワート・スタニフォードのearlywarn.blogspot.comより転載)

リビアの政情が不安になってから,サウジアラビアは不足分を補う増産をすると繰り返し発言した。サウジの原油生産は確かに増えはしたが、その量はリビア分を補うほどではない。また、サウジの増産したアブラの質はわからない。

これからどうなるか。リビアに反カダフィ勢力の政権が樹立されるにしても,原油生産が内戦開始以前のレベルまで回復するには相当長い時間がかかるだろうことは間違いない。水道の蛇口を開け閉めするようにはいかない。破壊されたインフラ,技術者の不足など問題が山積みされている。

リビア(2)でも書いたように
1979年のイラン革命では同国の生産の半分以上が止まり、現在に至るまで完全には回復していない。1990年のイラクによるクウェート侵攻では両国の生 産量は数年間にわたり減少、クウェートの油井は荒廃した。2002年のベネズエラの石油産業の大規模ストライキでも生産は滞り、ストライキ以前の水準には 戻っていない。

下のグラフはイランとイラクの例だ。





(この二つのグラフはデイブ・サマーズのbittooth.blogspot.com/より転載)

この二つのグラフからもわかるようにイランとイラクのアブラの生産のレベルはそれぞれの国で政情不安があったあと,何年もたつというのにそれ以前のレベルまで回復していない。リビアの原油生産が数週間とか,数ヶ月で回復するだろうという楽観的な見方をする石油会社や政府もあるが,イランとイラクなどの例を見れば,もっと時間がかかるだろうと見る方が現実的だ。

リビアについて今年はじめにも書いたように,せいぜい2%のアブラが世界経済を不安定にならしめるほど、アブラの需給は逼迫している(そういう状況だからこそ,その程度の量なのにヨーロッパはひっちゃきにしゃかりきになるのだ)。
リビアの政治体制がどうなるにせよ、その状態はしばらくは変わらない。サウジなどの増産が間に合わなければ,経済は持ち直す前に悪化するだろう。


リビア(1)

リビア(2)

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