Tuesday, January 25, 2011

英国ピーク事情/Teqs rules UK?

超党派の議員で作られる「ピークオイルに関するグループ(APPGOPO)」がTeqsというエネルギー配給制度の導入を提案する報告書を提出しました。
TEQs (Tradable Energy Quotas)は「取引可能なエネルギー割当」のことで、テックスと発音するそうです(ニュージーランド人が発音すると「ダニ」のように聞こえちゃう。)

この報告書をまとめたのは無駄のない経済関係(The lean economy connection)というロンドンにある研究機関です。これは昨年11月に他界したデビッド・フレミングが立ち上げた機関で、テックス自体もフレミングが1996年に最初に提唱したものです。

フレミングは環境運動やエネルギー運動の活動家で、英国の緑の党の創設にも寄与し、1990年代からピークについての対策を講じるよう呼びかけた人です。ピークへの対応のひとつとして日本でも広がりつつあるトランジション・タウン運動の生みの親、ロブ・ホプキンスは「ハインバーグのピ−クオイルに関する考察、ホルムグレンのパーマカルチャー、そしてフレミングのたくましい地域社会という考えをまとめたものだ」とフレミングの影響の大きさを語っています。だから、関係者のなかには、フレミングをトランジション・タウン運動の祖父と呼ぶ人もいます。
英国におけるオイルピークが活発化するひとつの契機は1999年4月、プロスペクト誌に掲載されたフレミングの「次の石油ショック?」という記事でした。
この記事で、フレミングは前年の『世界エネルギー展望』には暗号が含まれている。大きな影響をもたらすであろうエネルギー危機が近いことを示唆しているのではないかと国際エネルギー機関(IEA)の発表をいぶかりました。こんな記事をそれから5年とか10年後に書いたならともかく、1999年に書いているところがフレミングのすごいところです。なにしろ、その年の1月には石油価格は最近では最低のバレルあたり17ドル(現在の1/5)をつけたのですから。
これを読んだIEAの主任エコノミスト、ファティ・ビロールはフレミングに会いたいとコンタクトをとってきたそうで、「あなたの読みは正しい。世界でもこれが分かったのは6人くらいじゃないか」とフレミングに言ったとされています。フレミングが1996年にはじめて言及したエネネルギー配給制度の確立に全力を注ぐようになったのはビロールと会ったあとだといわれています。
さて、英国議会のなかに2007年の7月に設置された「ピークオイルに関するグループ(APPGOPO)」はピークオイルの経済や国民生活への影響を図り、適切な政策を進言することを目的とする超党派の議員からなるグループのことです。ジョン・ヘミング下院議員(自民党)が座長で、保守党、自民党、野党の労働党、緑の党など、国会に議席を持つすべての政党の議員が参加しています。
イギリスではすでに2008年の11月に「気候変動法The Climate Change Act」が発効しており、法的には、個人にそれぞれ大気汚染の許容範囲を認め、使わなかった汚染権を取引したり、足りなくなれば買い取ることができるようになっています。まだ導入はされていませんが、オーストラリア領のノーフォーク島で排出権個人取引の世界最初の導入実験が今年早々にもはじまることになっています。
テックスはそれと似たような形で、それぞれの大人にこれだけのエネルギー(ガソリンと電力)を使っていいよという形で、毎週エネルギーの使用権が配給されます。エネルギーの1ユニットはそれぞれの燃料の生産から消費の過程で生産される二酸化炭素1キロに相当すると定義されています。したがって、テックスはエネルギー配給制度という側面と同時に気候変動対策でもあります。
テックスは個人あてに電子的に配給され、実際にガソリンや電力を購入する際には割当枠とカネを支払います。個人の消費が割り当てられたエネルギー枠を下回れば、あまりは市場で取引することができ、足りなくなればエネルギー割当を他の人から買わなければなりません。それが省エネを促す、温暖化ガス生産を抑えることになるという目論見です。公共機関や企業は毎週、必要なエネルギー割当を購入しなければなりません。
全国的に出回るエネルギー総量は政府が決定します。出回るエネルギーの量を毎年落としていけば、エネルギー減耗対策にもなり、気候変動対策になるという仕組みです。

法的には前述の「気候変動法」に基づき、テックスは今すぐにでも導入することができますが、この報告書を発表したAPPGOPOの座長、ヘミング議員は明日導入するというわけではないと述べています。まだまだ、議論が必要になるはずです。
テックスの導入がいつになるのかはともかく、実効はどうでしょう。果たして英国一国における導入がどれほどの効果を生むのでしょうか。英国が節約した分は「これまで通り」を決め込む別な国で消費されてしまうのではないか。そういう心配があります。また、それを防止するために国際的な枠組みを作ろうとすれば、京都議定書のように延々と時間がかかり、しかも合意ができても、誰も真剣にならないという弱点があります。
エネルギー減耗議定書をつくろう、国際的な枠組みをつくろうという提案はリチャード・ハインバーグなどによって繰り返されていますが、なかなか前に進んでいません。APPGOPOにも関わってきたジェレミー・レゲットは「京都」や気候変動の国際会議にも自ら関わった経験から、国際減耗議定書は時間のむだだと著作『ピークオイルパニック』で言っています。
導入がいつになるにせよ、こういう大事なことを国会議員が真剣に議論し、研究している、導入へ現実的な道筋も考えているということはうらやましい限りです。
些細なことにばかり終始するどこかの国の議員は爪のあかでも煎じて飲んでほしいものです。英国の同僚に見えることがあなた方にはなぜ見えないのですか。どんな時代に生きているのか、その時代はどんな問題を抱えているのか、真正面から見てください。ピークと気候変動の複合作用がどんな影響をもたらすのか、そしてどんなシナリオが可能なのか、それを考える格好の入門書はホルムグレンの近刊、『未来のシナリオ』です。何人かの議員には本が送られているはずです。ただつんどかないで、ぜひ、ページをめくってみてください。

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