Monday, January 14, 2008

輸出ピーク/peak export

現時点では90ドル台に戻っているが、原油価格は新春早々,瞬間風速で1バレル100ドルを超した。これを契機に、これまで以上の主流メディアも(懐疑的にせよ)ピークを取り上げつつある。
アブラの価格についてはこれが天井であり,これからは下がり続けるという楽観的な見通しもあれば、まだまだあがり続ける,今年末までには150ドル、いや200ドルだなんて予測もある。

昨年10月に亡くなったアリ・サムサム・バクティアリによれば「不確実さ」はピーク直後の転換期の一つの特徴であり、今年もアブラの価格は安定しないだろう。バクティアリの2003年に発表したアブラの生産動向予測は,これまでのところ誰の予測よりも正確である。今年もアブラの価格は流動的に推移することは間違いなく、それはとりもなおさず,我々の呼吸する時代がピーク以降の転換期であることを証明している。

アブラの価格は今年末に60ドルくらいに下がる可能性もあるが,来年には200ドルに跳ね上がっていても少しもおかしくない。

エコノミスト誌は「ピーク・ナショナリズム」というタイトルでアブラの価格が100ドルを超した理由を説明している。

エコノミスト誌は地質学的な理由によるオイル・ピークには懐疑的で,アブラの価格上昇を地政学的、政治的な理由に求めている。エコノミスト誌は「ナショナリズム」と呼んでいるが、基本の論調は、以前ここでも触れたウォール・ストリート・ジャーナルやニュー・ヨーク・タイムスの記事と同じで、産油国がアブラの売り上げで潤い、消費が増加することにより,輸出に回るアブラが減るということだ。

これはやはり、以前に指摘したが、石油地質学者のジェフリー・ブラウン(ちまたではウエステキサスのハンドルで知られている)が2年ほど前から言い続けていることであり、目新しい内容ではない。

そのブラウンが、国際市場に出回るアブラの量について、サミュエル ・フーシェ(ケバブのハンドルで知られている)との共同研究を先週発表した。国際市場に出るアブラの半分をまかなう輸出5大国について,それぞれ生産量の減耗と国内消費の増大の傾向、それに伴う輸出量の減耗を調査したものだ。

オイル・ピークというと識者のあいだでも、生産に話が集中しがちだが,日本やアメリカ,ニュージーランドなどの輸入国にとって気がかりなのは市場に出回るアブラの量だ。生産量そのものも問題には違いないが,極端な話,どれだけ生産が増えても、輸出市場に出てこないことには輸入することはできないからだ。



メディアを含め,ピーク論者の多くはグラフの赤い線ばかりに集中しがちだが、下の方からじわじわと忍び寄る緑の線が輸入国にとっては深刻な問題になる。

「2000年から05年にかけ,これら5カ国の需要は年率3.7%で伸びている。2005年から2006年にかけては5.3%に跳ね上がった。2005年から2006年,これら5カ国からの輸出総量は年率3.3%で減少している。06年から07年にかけて減少がさらに加速されるのは間違いない」

生産減耗と消費増加の結果,世界市場に出回るアブラの量は激減していく。


二人は次のように結論している。

●2005年にこれら5カ国から輸出されたアブラは2300万バレル。それ以後の2年間,これらの国からの輸出は毎年100万バレル減っている。この率で「輸出減耗」が続けば,5大国から国際市場に出回るアブラの量は2031年前後にはゼロになる。アブラの世界市場はますます薄くなる。

●個々の油田同様に、小さな産油国がこれら5大国の穴を埋めることはむずかしい。小さな産油国は生産ピークに到達するのが早く,ピーク以降の減耗率も大きいからだ。

●アメリカにとり二番目に大きなアブラの供給国であるメキシコからのアブラ輸出は2014年にはゼロになる。

●この結果,消費国における消費の激減がない限り,アブラの値段は上昇し続ける。産油国は次第に薄くなるアブラの国際市場で競い合い,価格を押し上げる。

二人がことわっているように,この研究はあくまでもモデルであり,シュミレーションにすぎない。この研究は生産減耗や消費の増加が一律であり,しかも、まず、国内での消費の増加が最初にまかなわれ、その余剰が輸出にまわされるという「国民経済」の前提に立っている。極端な例では「飢餓輸出」にみられるように、国民のことなんかおかまいなし,高い国際価格で売ろうという「企業努力」がなされるはずであり,ことはそう単純ではないだろう。

しかし,アブラのほとんどを輸入に頼る国にとって深刻さはかわらない。近代経済、現代社会のの血液であるアブラの国際市場が薄くなる前に,将来に向けた恒久的な投資を行わないと、大変なことになる。

日本やアメリカではこの冬「灯油券」が発行されているが,そんな付け焼き刃の応急措置はきわめて近い将来に用をなさなくなる。まだ,手元に資源があるうちに,灯油がなくても過ごせるような家作りというような、より恒久的な措置に取り組むべきだ。

4 comments:

Anonymous said...

石油輸出国は原油価格の高騰で潤い、自国の石油消費は増加し、経済発展もする。石油減耗によって石油輸出国にもたらされるものは経済の正のスパイラルであり、他方、石油輸入国では逆に、負のスパイラルでしょう。
石油の入手可能性が、石油輸出国においてますます強化されていく構造をここにみるのですが。

また thin market となるほど、輸出商品の希少性という要因が、単なる需給関係の枠を超えて原油価格を強烈に押しあげていくような気がします。
現下も投機マネー云々といわれていますが、モノづくり経済の閉塞がはっきりしてくれば、そこからは投資が引き上げられ、マネーはいよいよオイルにしか行き場がなくなるのではないのでしょうか。金融商品についても、新たな信用創造が世界的に縮小傾向となれば同じ流れを産むのかもしれない。

その相乗効果たるや、如何‥‥?

Unknown said...

 山頂2号さーん、ざ・こもんずの方のブログ記事で出ているグラフと順番が逆になっています。
 さあて、石油減耗議定書の提案では、グローバルな市場を家庭して、均一の石油消費削減率を各国が宣言する、という構造だったわけですが、本当に輸出国が減耗後のナショナリズムを発揮し始めるなら、それは機能しなくなりますね。

山頂2号 said...

dr.k さん、おっしゃるように、輸入国は生産量もそうですが「入手可能な量」にもっと真剣に注目しないと大変なことになりますね。1970年代、ニクソンショックを契機に始まった石油本位体制の崩壊は間違いないでしょう。

sgwさん、ご指摘どうもありがとうございます。間違いは直しておきました。議定書の「削減率」は一律のレート,例えば2%とか3%をそれぞれの国に適応しようという考え方ですよね。そして,それは生産減耗率に連動すると。生産国の方も、生産を押さえると。
うわーっ、これはレゲットがいっているように「キョート」以上に難航しそう。

Unknown said...

山頂2号さん、
 石油減耗議定書で求めているのは、輸出国は自国のR/P(枯渇年数)を今年の年数で維持するように生産量を減らすことです。
なので、通常であればこれまでも産油国がやり続けてきたパターンを維持する、というものなわけですが。
 自国内の消費が増えてハイプロフィール国になれば、維持できなくて圧力に負けて過剰にくみ出すことが始まるだろうということですね。