Thursday, March 16, 2006

パンクス・ノット・デッド/Roger is a punk rocker.


昔、バンドのマネージメントをやっていた頃、「マネージャーになるのはベーシスト失格者」がキョーカイの通説だった。「失格」かどうかは分からないが、たしかにまわりを見回すと、以前、バンドでベースを弾いていた者が多かったし、バンドの中でマネージャー的な役割を果たすのはベースの人間が多かった。

昔、一緒にニック・ケイヴやノイバウテンなどのマネージメントをやったロジャー・グリーソンもベースギターからの転向組のひとりだ。70年代後半、シドニーでソウト・クリミナルズ(思想犯)なんて、オーウェルの「1984」から名前をいただいたパンク・バンドでベースを弾いていた。


パンク音楽についてはいくつも定義することができるだろうけど、特定の音楽のジャンルってよりも、やむにやまれぬ性急な態度、自発的な方法論だと思う。当時のギョーカイ・ロックに反発する形で生まれたもので、それまでに「パンク」なんてジャンルがあったんじゃない。金がなくてもコネがなくても、やりたかったらやっちまえ。音楽なんか、金をかけなくたって作れる。音楽をやるってだけで、誰に頭をさげ、こびを売らなくたっていい。レコードもコンサートも、自分でやっちまえ。そんな生き方、やり方のことを指すんだと思っている。バズコックスもワイヤーもフリクションもあぶらだこもパンクだった。

ソウト・クリミナルズの場合も手作りが基本で、録音から、作ったレコードを売ることまで、切り盛りしたのがロジャーだった。インターネットが普及した最近ならともかく、あの頃、隣町の音楽状況を知る経路すらなかった。同じ頃の、各国のシーンと比べてもひけをとらない良質の音楽を演るバンドがごろごろいたのに、ほとんど誰にも気付かれずに潰れていった。そんな時代に、既存のギョーカイに対し、自らの行動で立ち向かっていく。それがパンクだった。

ロジャーはダブルシンク(二重思考)という自主制作レーベルをたちあげ、何枚かのレコードを制作する。レコードにしても、印刷物にしても作ることなんか簡単だが、それを流通させることは生半可なことじゃない。特に土地の広いオーストラリアでは聞き手が見えないことがしばしばある。どこにいるのか分からない。ネットワークもない。作ったレコードをコンサートで配り、コンサートで出かけた町でレコード屋に置いてもらう。もちろん、コンサートのブッキングも自分達でやっった。そのうち、ロジャーは他のバンドのツアーブッキングも手掛けるようになり、新たなレーベルをたちあげ、マネージメントに乗り出し、ベースを弾くよりも、ビジネス活動のほうへ重点を移していった。挙げ句の果て、つい最近まで、マードック系のレコード会社、フェスティバルの社長をしてた。ベース失格者もそこまでいけば大したものだ。

ひさしぶりに話をすると、ソウト・クリミナルズの音源がCDやレコードで再発されたことよりも、オンラインで無料ダウンロードできるようになったことを嬉しそうに話していた。でも、そんなことしたら、金にならないでしょ、って言いかけたけど、考えてみりゃ、連中、最初っから、自分達の音楽をただで流通させることが願いだったんだ。デビュー・シングルも「パンク・レコードに金は払わない」だったっけ。30年近く経って、ようやくテクノロジーがそれに追い付いたってわけだ。

ダウンロードはソウト・クリミナルズのサイトから。

パンク音楽なんてものが生まれてから30年近く経った。いろいろ、あの頃の音源がリマスターされたり、ボックスセット化されている。それはそれでいいことだが、30年前の思いを最新のテクノロジーを使って達成する。パンク精神、健在なり。

再発記念に、しばらくぶりにベースを弾くってことで麓の町まで見に行こうかと思ったけど、あんまりへべれけになると帰りが心配だし、そんなこと心配していたらバンドも楽しめない。ので、やめ。

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