Wednesday, May 30, 2007

霧の中で立ち尽くす/lost in the bush.

売りに出した家がなんとか売れそうな気配で、うまくすすめば3ヶ月もしないうちにニュージーランドの南島へ向け、引っ越しってな感じになってきました。でもまだ、はっきりしたわけじゃなく、相変わらず、まったく落ち着きません。
この大陸には、かれこれ25年以上も暮らしたんですが、もう再び帰ってくることがあるのかどうか。そう思うと、会える人には会い、見納めかも知れないと、バンドもあれこれ見に出かけたり。いつか行こうと思いながら、ずっとのばしのばしにしてきた場所へもこれが最後の機会かもしれない、どしどし出かけるようにしています。

先週末はしばらくご無沙汰の友人と、ここから西へ80キロほど行ったところにある森の中へキャンプに行きました。その森の向こうには去年まで所有していた農場があり、よく通ったエリアです。最近降った雨のためか、思いのほか、潤って見えました。もっと枯れているのかと思ったのに、緑の牧草が広がるのを目にして、あらあら、決断を誤ったかしら,なんて思ったりしました。ハワード首相が常々口にするように、「雨は降る。必ず降る」。雨さえ降れば、オーストラリアは大丈夫なのかもしれないなあ。そんな気もしてきます。

それもこれも含めて、後ろ髪を引かれる気持ちがあることは間違いありません。住むところはいくつも転々としましたが、こんな気持ち、初めてです。

たぶん、ここ10年間、自分はこの環境に生かされてきたからでしょう。庭で育った野菜や果物を食べ、周りの薮の作り出す空気を吸い、景観に息をのみながら暮らしてきたからでしょう。

うちの庭なら、目をつぶっても,どこに何が育っているのか、すっかり頭にはいっています。次の春どころか、3ヶ月後にはここにいるのかどうかもわからないのに、レタスや水菜の種を撒き、雑草をむしったり、庭いじりをやめられません。

となりの薮も、道路を通す計画から守るため、市議会に出かけたこともあるし、雑草を取り除き、植樹をしたり、かなり濃密に関わってきた空間です。迷路のようなブッシュに迷うこともないし、どこにどんな植物が生えているのか、こちらもたいてい頭にはいっています。

IMG_0032.JPG

庭も薮も、今日は一面、濃い霧に覆われています。霧の中をふわふわと歩いていると、周りの自然が、自分たちを引き止めようと、精一杯の景観を作り出しているんじゃないか、そんな気さえしてきます。耳を澄ませばブッシュに暮らす植物や動物や昆虫などが口をそろえて文句を言っているようです。知人や隣人のつまらない戯れ言はまったく気にならないのに、木々のざわめきに立ち尽くしてしまいます。

清浄でおいしい空気を作り出してやったじゃないか。
はっとするような光景をいくつも見せてやったのに。
冬には枯れ枝で暖をとったじゃないか。
植物や動物や鳥もさんざ、見せてやったというのに。

お前は俺たちを見捨てていくのか。


もしかしたら、自分たちが引っ越したあとには「開発」がやってきて、ブッシュが切り払われ、蛇やワラビなども住処を奪われてしまうかもしれません。だから、言い分ももっともな気がします。

まあ、オイルピーク以後の時代、これまでのような「開発」なんか、やろうと思ってもできなくなるし、それに新しい住人は自分たちなんかよりも、ずっとましな人人間で、あれやこれや取り越し苦労かも知れない。

所詮、なるようにしかならないんだから、お互い様。
こっちはこっちでがんばるから、そっちもがんばれよ。


文句と言えば、家だってぶつぶつと言ってます。
これほどゆったりとした住み心地のいい豪邸にはそうそう住めるものじゃないぞって。

だろうね。気候がゲテモノ化したり、オイルピーク以後の時代って、そういう時代じゃなけりゃ、ずーっとここで安穏と暮らしていたかもしれない。

自分を育んでくれた家や庭やブッシュのぶつぶつ言う声が聞こえてくるのは、これからの暮らしは、いまよりもひどいものになるかもしれない、と不安があるからでしょう。

引っ越した先で、いまよりも大きな食物生産システムを作るつもりではいますが、それには時間もかかるし、もしかしたら、まったくポシャるかもしれない。どれだけ作りたいと思っても、種や苗木が手に入らないかもしれないし、気候があわないかもしれません。いま、ここで育ててる植物があちらでもうまく育つ、そういう保障はありません。この数ヶ月で食べ納めになる野菜や果物もあるでしょう。大豆は気候的にまったく無理みたいだし、柿の木なんてどうなんだろう。熟した柿を庭で収穫しながら、考えてしまいます。

引っ越していく先は南緯45度。日本近辺で比較すると北海道の北、稚内のまだ北あたりに相当します。さいはてな感じは否めません。どこでも、その地で育つものをありがたくいただく、それは承知しているつもりなのに、不安は尽きません。

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