ピークについて、コリン・キャンベルがコンパクトにまとめた文章を先月末に見かけたので、下記に訳出します。
キャンベルは元BPの地質学者で1998 年に「サイエンティフィック・アメリカン」論文で世界的なオイル・ピークの到来が近いと警鐘を鳴らした人物。オイル・ピーク調査学会(ASPO)の設立者であり、ピーク論者の中では長老格。彼はピーク以後の時代を第二の石油時代と呼んでいます。
原文はアイルランド、ダブリンに本拠を置くカルティヴェイトという雑誌のために書かれたもの。カルティヴェイトのサイトを覗いてみると、石油ピーク以後の暮らしを創造的に探っていこうとする団体のようで、雑誌はそういう時代の暮らし方を模索する活動の一環のようだ。本部にはパーマカルチャー式の庭があり、カフェがあったり、情報センター、スペースとしての役割も果たしているようだ。
こういう動きって、これまでにあるような「オシャレな流行り」とは区別しておきたい。現在いる場所、時代を歴史的に、エネルギー使用という観点からしっかり把握しているからだ。例えばオイル・ピークという時代認識をしないで、パーマカルチャーだとか、持続可能だとか騒いでもしかたがない。特に日本のように、何でもかんでも、外の流行を有り難がる人がいる場所ではパーマカルチャーさえ「オシャレな流行り」になりがち。テッド・トレイナーが「パーマカルチャーを文脈抜きで広めることになんか、意味はない、むしろ有害ですらある」とそのあたりを指摘している。その問題や、ピーク以後の生き方のひとつとしてのパーマカルチャーについてはまた後日、あらためて。
ショックが待ち構えている
IN FOR A SHOCK
コリン・キャンベル
原文
石油というものは、掘り出され精製される前に発見されなければならないわけで、油田の発見と石油生産とのあいだには時間差があるというのが道理です。それでは油田発見の記録ってのはなんでしょう。そんなもの、いろいろな公式発表から見つかるんじゃないか、そう思うでしょう。ところが、それは、ものすごい混乱と誤報に満ちているのです。石油会社は厳しい証券取引所の規則に適合するように、発見より少なめな報告をしてきました。中東諸国のなかにはOPECの生産割当てを得るため、競って誇張した報告をする国もあります。さらに混乱に拍車をかけるのは、油はいくつかのカテゴリーに分けられていますが、その定義がまちまちなことで、それぞれが異なる早さで減耗しています。しかし、幸いなことに、世界最大の石油会社の幹部が、油田の発見に遡り埋蔵量の見直しを行った石油業界のデータを発表してくれました。(Longwell H, 2002, Energy World3/2).
(訳注:ハリー・J・ロングウェルはエクソン・モービル社の副社長)
その文書が伝えるのは、この40年間、最大で最良の油田を求め、世界中を血眼になって捜しまわったにもかかわらず、すばらしいテクノロジーの進歩と地質学的知識の進歩があったにもかかわらず、油田探査の経費のほとんどは必要経費として落とせるという幸せな経済環境にありながら、油田の発見は容赦なく減退しているということです。
油はきわめて稀な地質学的条件のもとで形成されました。今日生産される石油のほとんどは、ふたつの短い時期、9000万年前および1億5000万年前に、極端な温暖化が起こり、そのとき異常繁殖した藻が形成したものです。結果として生産された有機物質が大陸移動の際に生まれた裂け目に埋められ、油に変換されたのです。石油の分布図を見れば、油田のある地域は特定の地質状態の場所に固まっていて、それぞれのあいだには広大な不毛な大地が広がっています。大油田のすべてはすでに発見されており、これからは、現在生産中の油田の近所に、規模の小さなものが見つかるということにならざるを得ません。
いわゆる「従来型の通常の原油」がこれまでもっとも使われてきたもので、これからもずっと主流をなします。およそ945gb(ギガ・バレル=10億バレル)がこれまでに生産されました。これまで発見されている油田に残る量は775gb、そして、これまでの傾向から判断して、130gbがまだ、これから発見されることを待っています。
それぞれの国や世界全体における石油生産は、油田の発見から始まり、ひとつかそれ以上の頂点を極め、やがて、幕を閉じるものです。上の見積りに従えば、生産が頭打ちになり、やがて訪れる枯渇に向け減少し始める地点、石油減耗の中間地点に、世界は非常に近いことがわかります。重油、タール、深海油田、極地油田、液化ガスなど、その他の種類の油はエネルギー下降の一時しのぎにはなりますが、ピーク自体に多くの影響力をあたえないでしょう。
天然ガスは植物の残りと深く埋められた石油がオーバーヒートされた結果、生成されたものです。天然ガスは石油より広い地域に分布していますが、液体ではなく、気体なので時間の経過とともにに鉱床から流出します。通常、生産は供給のパイプラインシステムの容量に左右されるので、天然ガスは頂点を迎えるのではなく、停滞期が長く続くパターンをとるでしょう。そして、アメリカやイギリスが経験したように採収効率が突然急落し終結する傾向があります。
石油価格はここ数年上昇しており、現在は記録的なレベルに達しています。 簡単に説明すれば、世界は長期的な減耗へ向かう生産の中間点を通過しつつあるということです。需要は供給能力を超え始めています。大きな埋蔵量を持つ中東諸国は巨大油田の劣化、衰退を相殺するかのように、全力を挙げたフル生産にはいってます。
端的にいえば、人類は石油時代の第一部の終わりにさしかかったということです。それは150年続き、石油生産の拡大と軌を一にするように、産業や輸送、商業、農業は急速な発展を遂げ、人口は6倍に増えました。明日の成長が今日の負債を帳消しにするという信頼を担保に、銀行は自ら保有する預金高以上の貸し付けを行い「金融資本」も拡大しました。実際、世界を動かしているのは、石油を主とする
安いエネルギー供給なのですが、私たちは、世界は金の力で回っていると思うようになりました。石油時代の第二部は今、まさに明けようとしています。第二の石油時代の特徴は石油の衰退であり、金融資本をはじめとして、石油に頼るすべてが衰退することです。
石油のように重要な資源がしっかりと代替の見込みもなく減耗し始めることは、人類の歴史でも初めてのことなので、未曾有の断絶がおこることになります。したがって、転換期は、ことによると、かなりの緊張をともなう時期になり、株式市場の暴落と激しいインフレーションがおこることもあり、成長という担保を失った余剰金融資本が失われることになります。石油時代の第一部に適当であった経済構造と、それに対応する政治構造は、自然の課する状況に適応する構造にとって替わられるでしょう。
次のような要素は、今すぐにでも国政レベルの政策に取り入れることができるものです。
●ピークに関して、一般を対象とした啓蒙活動。
●世界的な減耗率(年間2-3%)に従い、石油の輸入を減らしていく。
●今とてつもないレベルになっている無駄を削る。
●波や潮力、風力、太陽力、水力、バイオマスなど再生可能エネルギーの導入を可能な限り進める。
●市場を地域に分割し、地域社会の開発を促す。
●新しい住宅の建築や農業政策を通し、持続性への回帰を奨励する。
要するに、社会の再構築が火急であり、そのためにはあたらしい目的、考え方、態度を見つけなければなりません。
アイルランドも変遷の圧力から逃れることはできません。しかし、アイルランドには強みもあります。ケルトのタイガーと呼ばれる経済バブルは、おそらく金融破綻で崩壊するでしょう。特に危ないのは電力の供給です。40%近くを主にイギリスから輸入した天然ガスからの発電に頼っています。はげしい上昇傾向から判断すれば、イギリス自身、来年には天然ガスの純輸入国になります。アイルランドの石油需要は、一人当りではかなりな量になりますが、国全体として世界的にくらべれば小さなもので、政府の支援があれば、民間会社が積極的になれば確保できないことはない量です。人口がそれほど多くなく、アイルランドが島国であることは自然のフロンティアになります。大西洋から吹く風と波が給養した緑の野は、自然と協力し、自信をもつ社会に持続可能な未来をもたらします。そうは言っても、健全で新たな政策を政府が実行に移すことは大きなチャレンジであり、難しさを過小評価するべきではありません。
No comments:
Post a Comment