こもんずの地主、高野さんが提唱した「3冊まとめて」って書こう書こうと思いつつ3冊たまらず,やっと3冊たまったぞと思ったらあのコラム,どこかに行っちゃったようですねえ。
あらあら。
なので,一冊ずつ紹介していきます。まずは作品社から出版の翻訳もの、「ピークオイル・パニック」から。原本はジェレミー・レゲットの「ハーフ・ゴン/Half Gone(半分終了)」です。
もう何年も前から,オイル・ピークと地球温暖化が気になって仕方がありません。これらが人間社会を直撃する2つの危急の課題だとか、なるべく客観さを気取り、あんまり扇情的にならないようにしているけど,本当は膝ががくがく震えて,時には言葉にすることもできず、絶望の淵でどうしようもないほど落ち込んでしまうこともあります。
そういう直接の怖さもありますが,もうひとつ、何で,みんな,ヘーキな面してるんだろうってレベルでの怖さもあります。自分のような未熟者がこれほど苛まれてるってのに,一緒に仕事したり、尊敬するジャーナリストやライターや報道者たちは気にならないのだろうか。なぜ声を上げないのだろう、って不思議で仕方がありません。そのレベルの怖さも相当なものです。
まあ、温暖化などのもたらす気候変動に関しては米国とオーストラリアを除き,世界中で合意ができつつありますが,ピークに関しては、いまだに認識が薄いようです。だから、地球環境を心配する人の中で,ピークを理解する人が少ないのはある程度,うーん,わかる気がしますが,ピークを語る人たちの中で地球の物理的な枠を理解している人が少ないことには、首をひねってしまいます。
今年7月にイタリアで開かれたASPO(ピークオイル研究学会)の第5回国際大会の講演者の中でも、気候変動との兼ね合いでピークを論じたのは本書の著者レゲットだけだったそうです。環境から見れば,かなりトンデモな解決方法を口にする「専門家」もいたようです。たとえば、米国政府エネルギー省の要請で通称「ハーシュ報告書」をまとめたロバート・ハーシュ。
彼は、タールサンドを掘り出せるだけ掘り出し、石炭という石炭を液化しろ、淡々とそう語ったそうです。んなことすれば,自動車を走らせる液体燃料は獲得できるかもしれませんが,地球環境がめちゃくちゃになるなんてことは、まったく頭になかったようです。超深海油田,超ヘビーなタールサンドや重質アブラとか、そんな高エネルギーな消費社会を続けていたら,地球が持たないだろうということには気づかないわけです。
そうかと思えば,世界中に原発を3000基建てれば問題解決!って、日本政府やオーストラリアのハワード政権が喜びそうな,名前を出すのもはばかるようなピーク「専門家」もいたそうです。原発で電気自動車を走らせれば,オイルピークもすっかりへっちゃらってわけです。
「げ」の字については、最近,オーストラリアでもハワード首相が入れ込んでいます。ジェームス・ラブロックやティム・フラナリーといったそれなりに影響力のある「環境専門家」たちの言説を引き,「げ」の字の推進をぶち上げています。ウランもアブラ同様,使いっきりの資源で,現状の数の原発を賄うだけでも20年以内にピークに達するだろうと言われているのに,そんなことを意に介さず、です。
おまけに、「げ」の字は温暖化には脆弱で,この夏、フランスやスペイン,ドイツなどでは猛暑でいくつもの原発が操業停止に追い込まれています。温暖化は原発なんか,簡単に停めちゃいます。な〜んの役にも立ちゃしません。
「げ」の字について、第5回大会でレゲットはみずからのプレゼンのあと、例の原発を3000基建てれば、すべての問題は解決すると前日発言した人から,ピーク以降の時代に原発の果たす役割について質問されたそうです。
レゲットは、「英国政府のエネルギー政策諮問委員会のメンバーという立場上,言葉を選ばなけれならないが」と前置きしてから、こう答えたそうです。
これからの時代に「原発に果たせる役割があるなどと考える人間は、まったく気がふれている(utterly insane)」。
まったく気がふれている。も一度,繰り返しましょうか?
まったく気がふれている。
「げ」の字推進者に対してこれ以上適切な回答はないでしょうね。
ピークをしっかりと認識する人たちでさえこのていたらく。ピークと温暖化、この2つのでかい問題がしっかり絡み合っていることを理解する人がそれだけ少ないってことかもしれないし,その恐ろしさが身にしみていないってことでしょうね。だから、この2つを人類が直面する「最大の大量破壊兵器」とするレゲットの著作は貴重です。
そして、「最大の大量破壊兵器」に直面する人類の前に立ちふさがる勢力は強力です。
ピークへの対策を阻むのは「京都」への合意の過程を阻み,骨抜きにしようとしたのと同じ勢力です。本書でも明らかにされるように,ひとつは石炭や石油企業(いわゆる炭素ロビー)と自動車業界です。それらが「京都」への過程でどれほど汚い手を使ったのか,本書でも数章がそれに割かれています。もっと怖いのは,ピーク問題でも同じメンツが暗躍していることです。それを思うと絶望的になってしまいます。
オイルピークがそれほどの問題なら,なぜ,各国政府は手をこまねいているのでしょうか。
本書には「二〇〇四年の夏には、もういい加減、(英国)政府だって、早期減耗問題に気がついているだろうと思ったものだ。私は英国政府の再生可能エネルギー諮問委員会に関わっていたから、政府の高官に会う機会も多く、そういう機会には、ピークオイルがいつ頃だと思うか、必ず尋ねることにしていた。問題じゃない、貿易産業省のトップに近い人間はそう言った。何も知らない、大蔵省の役人はそう答えた」と書かれています。政府の役人はそれほど無知なのでしょうか。それとも、無知を装っているだけなのでしょうか。
最近見たピーク関連ビデオ,Oil, smoke and mirrorsでは、ブレア政権の元環境大臣,マイケル・ミーチャが「もちろん、政府関係者はみんな知っている。各国政府のみんながピークをわかっている。ピークに関する政府間交渉が行われないのは,ひとえにアメリカ政府がそれを拒んでいるからだ。アメリカがそういう国際交渉を通じて,公正な取り分を決めるやり方ではなく,自分一人、軍事力でそれを確保することを決めたからだ」と発言しています。なるほど、温暖化対策の国際的な枠組みの受け入れを拒否したアメリカのことゆえ、あり得ることです。だから、ピーク問題に関する国際的な「議定書」だとか,枠組み作りは結局,残念ながら、時間の無駄になるのかもしれません。
個人的には、本書でレゲット自身の提案する解決方法について,うーんという部分もあります。例えば,レゲットはサハラ砂漠にソーラーパネルを並べれば電力は賄えると書いています。それは「げ」の字なんかよりずっといいことは間違いありません。でも、それだけの電力がもともと必要なのでしょうか。
レゲット自身,ピークが根本的にはエネルギー供給の問題であり,それをクリーンで持続可能なエネルギー源で賄えれば大丈夫,と考えているような節があります。それは不思議なことではなく,ピーク論者の中でも,自分の知る限り,ピークの怖さがメシの問題であると理解する人間は数えるほどしかいません。オイルピークが食糧問題だと認識するのは,自分の知る限り,「ピーク議定書」を提唱するリチャード・ハインバーグ、パーマカルチャーの創始者のデビッド・ホルムグレン、アイルランドのキンセールで「エネルギー下降計画」を策定したロブ・ホプキンス、それにメルボルンでピーク問題の主要メディアである「エネルギー・ブレティン」を編集するアダム・フェンダーソンぐらいです。
それらは差し引いても,レゲットの本はピークって何だろうという人にはぜひ、読んでほしい本です。
同書に関するページ。
ビーさん,p-navi info
sgwさん、「ん」
益岡さんのページ。
アマゾンのページ。
あらあら。
なので,一冊ずつ紹介していきます。まずは作品社から出版の翻訳もの、「ピークオイル・パニック」から。原本はジェレミー・レゲットの「ハーフ・ゴン/Half Gone(半分終了)」です。
もう何年も前から,オイル・ピークと地球温暖化が気になって仕方がありません。これらが人間社会を直撃する2つの危急の課題だとか、なるべく客観さを気取り、あんまり扇情的にならないようにしているけど,本当は膝ががくがく震えて,時には言葉にすることもできず、絶望の淵でどうしようもないほど落ち込んでしまうこともあります。
そういう直接の怖さもありますが,もうひとつ、何で,みんな,ヘーキな面してるんだろうってレベルでの怖さもあります。自分のような未熟者がこれほど苛まれてるってのに,一緒に仕事したり、尊敬するジャーナリストやライターや報道者たちは気にならないのだろうか。なぜ声を上げないのだろう、って不思議で仕方がありません。そのレベルの怖さも相当なものです。
まあ、温暖化などのもたらす気候変動に関しては米国とオーストラリアを除き,世界中で合意ができつつありますが,ピークに関しては、いまだに認識が薄いようです。だから、地球環境を心配する人の中で,ピークを理解する人が少ないのはある程度,うーん,わかる気がしますが,ピークを語る人たちの中で地球の物理的な枠を理解している人が少ないことには、首をひねってしまいます。
今年7月にイタリアで開かれたASPO(ピークオイル研究学会)の第5回国際大会の講演者の中でも、気候変動との兼ね合いでピークを論じたのは本書の著者レゲットだけだったそうです。環境から見れば,かなりトンデモな解決方法を口にする「専門家」もいたようです。たとえば、米国政府エネルギー省の要請で通称「ハーシュ報告書」をまとめたロバート・ハーシュ。
彼は、タールサンドを掘り出せるだけ掘り出し、石炭という石炭を液化しろ、淡々とそう語ったそうです。んなことすれば,自動車を走らせる液体燃料は獲得できるかもしれませんが,地球環境がめちゃくちゃになるなんてことは、まったく頭になかったようです。超深海油田,超ヘビーなタールサンドや重質アブラとか、そんな高エネルギーな消費社会を続けていたら,地球が持たないだろうということには気づかないわけです。
そうかと思えば,世界中に原発を3000基建てれば問題解決!って、日本政府やオーストラリアのハワード政権が喜びそうな,名前を出すのもはばかるようなピーク「専門家」もいたそうです。原発で電気自動車を走らせれば,オイルピークもすっかりへっちゃらってわけです。
「げ」の字については、最近,オーストラリアでもハワード首相が入れ込んでいます。ジェームス・ラブロックやティム・フラナリーといったそれなりに影響力のある「環境専門家」たちの言説を引き,「げ」の字の推進をぶち上げています。ウランもアブラ同様,使いっきりの資源で,現状の数の原発を賄うだけでも20年以内にピークに達するだろうと言われているのに,そんなことを意に介さず、です。
おまけに、「げ」の字は温暖化には脆弱で,この夏、フランスやスペイン,ドイツなどでは猛暑でいくつもの原発が操業停止に追い込まれています。温暖化は原発なんか,簡単に停めちゃいます。な〜んの役にも立ちゃしません。
「げ」の字について、第5回大会でレゲットはみずからのプレゼンのあと、例の原発を3000基建てれば、すべての問題は解決すると前日発言した人から,ピーク以降の時代に原発の果たす役割について質問されたそうです。
レゲットは、「英国政府のエネルギー政策諮問委員会のメンバーという立場上,言葉を選ばなけれならないが」と前置きしてから、こう答えたそうです。
これからの時代に「原発に果たせる役割があるなどと考える人間は、まったく気がふれている(utterly insane)」。
まったく気がふれている。も一度,繰り返しましょうか?
まったく気がふれている。
「げ」の字推進者に対してこれ以上適切な回答はないでしょうね。
ピークをしっかりと認識する人たちでさえこのていたらく。ピークと温暖化、この2つのでかい問題がしっかり絡み合っていることを理解する人がそれだけ少ないってことかもしれないし,その恐ろしさが身にしみていないってことでしょうね。だから、この2つを人類が直面する「最大の大量破壊兵器」とするレゲットの著作は貴重です。
そして、「最大の大量破壊兵器」に直面する人類の前に立ちふさがる勢力は強力です。
ピークへの対策を阻むのは「京都」への合意の過程を阻み,骨抜きにしようとしたのと同じ勢力です。本書でも明らかにされるように,ひとつは石炭や石油企業(いわゆる炭素ロビー)と自動車業界です。それらが「京都」への過程でどれほど汚い手を使ったのか,本書でも数章がそれに割かれています。もっと怖いのは,ピーク問題でも同じメンツが暗躍していることです。それを思うと絶望的になってしまいます。
オイルピークがそれほどの問題なら,なぜ,各国政府は手をこまねいているのでしょうか。
本書には「二〇〇四年の夏には、もういい加減、(英国)政府だって、早期減耗問題に気がついているだろうと思ったものだ。私は英国政府の再生可能エネルギー諮問委員会に関わっていたから、政府の高官に会う機会も多く、そういう機会には、ピークオイルがいつ頃だと思うか、必ず尋ねることにしていた。問題じゃない、貿易産業省のトップに近い人間はそう言った。何も知らない、大蔵省の役人はそう答えた」と書かれています。政府の役人はそれほど無知なのでしょうか。それとも、無知を装っているだけなのでしょうか。
最近見たピーク関連ビデオ,Oil, smoke and mirrorsでは、ブレア政権の元環境大臣,マイケル・ミーチャが「もちろん、政府関係者はみんな知っている。各国政府のみんながピークをわかっている。ピークに関する政府間交渉が行われないのは,ひとえにアメリカ政府がそれを拒んでいるからだ。アメリカがそういう国際交渉を通じて,公正な取り分を決めるやり方ではなく,自分一人、軍事力でそれを確保することを決めたからだ」と発言しています。なるほど、温暖化対策の国際的な枠組みの受け入れを拒否したアメリカのことゆえ、あり得ることです。だから、ピーク問題に関する国際的な「議定書」だとか,枠組み作りは結局,残念ながら、時間の無駄になるのかもしれません。
個人的には、本書でレゲット自身の提案する解決方法について,うーんという部分もあります。例えば,レゲットはサハラ砂漠にソーラーパネルを並べれば電力は賄えると書いています。それは「げ」の字なんかよりずっといいことは間違いありません。でも、それだけの電力がもともと必要なのでしょうか。
レゲット自身,ピークが根本的にはエネルギー供給の問題であり,それをクリーンで持続可能なエネルギー源で賄えれば大丈夫,と考えているような節があります。それは不思議なことではなく,ピーク論者の中でも,自分の知る限り,ピークの怖さがメシの問題であると理解する人間は数えるほどしかいません。オイルピークが食糧問題だと認識するのは,自分の知る限り,「ピーク議定書」を提唱するリチャード・ハインバーグ、パーマカルチャーの創始者のデビッド・ホルムグレン、アイルランドのキンセールで「エネルギー下降計画」を策定したロブ・ホプキンス、それにメルボルンでピーク問題の主要メディアである「エネルギー・ブレティン」を編集するアダム・フェンダーソンぐらいです。
それらは差し引いても,レゲットの本はピークって何だろうという人にはぜひ、読んでほしい本です。
同書に関するページ。
ビーさん,p-navi info
sgwさん、「ん」
益岡さんのページ。
アマゾンのページ。
3 comments:
> 何で,みんな,ヘーキな面してるんだろうってレベルでの怖さもあります
私も毎日平気な顔してますよ。^^ ま、そーするしか、選択肢がないじゃないですか。とりあえずは。
山頂2号さんはよくお分かりでしょうけど、石油の減退に対処するには、一人では無理ですよ。社会全体でやらないと。
社会全体で対処するには、社会の多数が認識し納得することが必要でしょう?
社会の多数が認識し納得するには、ハードランディングが必要なんですよ。ショックを与えられて困らせられないと人は行動を変えない、と私は思います。
ハードランディングが来たら、そこからメディアの論客たちは「どうして今まで対処しなかったんだ!?」って雀のさえずりのように叫びまくるんじゃないでしょうか。
人間ってそんなもんでしょ。
それはそれと認識しつつ、私も、自分にできることとして、次の手を考えているところです。
Robert Hirsch は、今年エネルギー省に出した報告書で oil shale を石油の代替物として扱ってますね。二酸化炭素排出もEROEIも問題視していないのは明らかですね。
色々調べていて思いますけど、アメリカ政府は基本的に「二酸化炭素排出のことは考慮の外」ですね。ペンタゴンも今のところそう見えますね。Guardian にすっぱ抜かれた "Abrupt climate change" の件はありますが。(Andrew Marshal が関与しているので、私の関心をひきました)
ま、私のブログもそうですけど。(^^;)
個人的には二酸化炭素排出は少ないほうが良いと思っていますが、「二酸化炭素排出を減らしたら温暖化を止めることが最終的に可能なのかどうか」は依然として私としては疑問です。
言い換えますと、「二酸化炭素排出削減に努力しようがしまいが、温暖化は人間の努力では止められないのではないか?」という疑いを持って見ている、というのが私の態度です。
これを更に言い換えますと、「人間の努力の如何に関わらず、恐ろしい災厄が襲ってくるかもしれないし、その場合逃れようが無いのかもしれない」と思っているということです。
「二酸化炭素排出を減らせ!」って言ってる人たちは、「人為的な努力によって対処可能だ」って考えてるわけでしょう?
> サハラ砂漠にソーラーパネルを並べれば
1. パネル、蓄電設備、送電線の製造
2. パネル、蓄電設備、送電線の海上輸送
3. パネル、蓄電設備、送電線の内陸輸送(沙漠横断輸送)
4. パネル、蓄電設備、送電線の設置工事
にどれだけのエネルギー投入が必要なんでしょうね? 特に3と4は。Leggett がそこまで考えているようには思えませんね。
それに、上の問いかけは、以下の条件を満たせて初めて呈することができるものです。現時点では問いかける価値すらない、と私は思います。
(a) 夜間の電力需要を満たすに十分高い性能の蓄電設備が発明・量産されること
(b) 超電導送電線が実用化され、数千~数万km敷設できること
> アメリカ政府がそれを拒んでいるからだ
そーですか... やっぱりそうかもしれませんね。イラク、イラン、北朝鮮の扱いの差を見ていると、そうとしか思えない。
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