ここしばらく,地元の知人の映画作りを手伝っています。
自分の役割は制作者が東京で撮ってきた映像、インタビューの翻訳をやるだけで、大したことじゃありませんが、映像の仕事に関わるのは久しぶり。昔は、テレビ局でこんなこと、連日やってたんですけど、何時間かスクリーンを見つめ、耳をそばだてているとそれなりに疲れます。でも、それはNHKの連続ドラマやつまらない映画を見ている時とは違い、心地よい疲れです。
翻訳という仕事の性格なのでしょうか、他人の言葉を別な言語で言い換える仕事では,書かれたり話された内容と自分が共振する部分が大きいほど,よい仕事ができるようです。翻訳者も人間ですから、いかに黒子に徹するのが仕事とはいえ,言いにくいことばかりだと精神的に参ってしまいます。
今回お手伝いするドキュメンタリー映画の題材は25年間,沖電気の不当解雇に抗議し、徒手空拳、自分一人で戦いを挑みつづける「シンガー・ソング・ファイター」の田中哲朗です。かつての職場の門前に毎日でかけ,ギターをつま弾き歌を歌い,社員や一般の人間に訴える田中哲郎はご存知の方もいるかもしれません。こちらでも2月ほど前に「門前25周年記念」が新聞で報道されました。
今日は朝から田中の「戦友」で,中学の先生で卒業式で君が代に立たなかったことで処分された根津公子のインタビューを訳したんですが、そしたら,あらまあ奇遇。本日の東京新聞に根津の近況を伝える記事が載ってます。
田中も根津も、信念を貫き通す人で,ある意味では立ち回り方が下手で、バカな人たちです。25年も毎日毎日,不当解雇反対,人権侵害を訴え,元の職場に出かけるなんて,とてもじゃない,自分にはできないでしょう。人生の半分,ですよ。根津にしても3ヶ月の停職中、元の職場,新任校、都教委の門前に毎日「出勤」したそうです。3ヶ月でも,大変そうだなあ。
自分なら、新たな闘争の場を求めるとかなんとか、自分も周りも言いくるめ、さっさとケツをまくり,逃走するに決まってます。きわめていい加減な人間だということは誰よりも自分で承知しています。
だから、自分には田中や根津のように闘うことはないでしょうけれど、彼らの放つ真っ当な言葉を世界の人に伝える手伝いはできると思います。いい映画になるといいなあ。
世界中で真っ当な意見を押しつぶそうとする圧力が増しつつあるご時勢,こういう人たちの存在を知ると安心します。人間もまだまだ、そんなに捨てたものじゃないのかもしれない。上記の東京新聞の記事につけられたデスクの言葉を借りれば,ヤボで下品な人ばかりじゃない。
「旗を振ってお題目を並べるのはヤボだが、旗ならぬ権力を振り回すのはもっとヤボ。それに迎合しちまって、長いモノに巻かれるやからは下品でいけねえ。江戸庶民の伝統は「意気地」と「心意気」。それが粋ってもんだ。」
できるだけ粋な生き方をしたいものです。
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