週末には気温が上がり,時速100キロを超す突風が吹き荒れ,ニューサウスウエールズ州だけで50を越すブッシュファイヤーが発生した。十軒近い家屋が焼失し,焼死者も出ている。火は沈静化したとはいえ、まだ現在でもあちこちで燃えている。まだ,9月だというのに、すでに本格的な山火事の季節だ。
冬の間、クリケットの選手と同様,ほとんど耳にすることのなかった消防のトップの名前がメディアに頻繁に登場している。11月や12月の夏本番ならともかく,まだ,9月だぜ。
写真はエイジ紙より
今年はひどい年になりそうだ。150人を超す焼死者を出した83年に匹敵する、いや,それ以上,史上最悪のシーズンを警告する声も専門家から上がっている。それでも,連邦政府は「温暖化を証明する証拠はない」と言い続けるのだろうか。
薮の中に住まわしてもらっている身だから,いざという時の覚悟はできている。山火事の燃料になるような枯れ枝などを拾い、最善の備えはするつもりだが,こればかりは運を天に任せるしかない。
そうかと思えば,ビクトリア州では遅霜で,咲き始めていた石果の花がやられ、壊滅状態だという。サイクロンがバナナ産地を直撃し,バナナの値段が上がったように,杏や桃などの値段が急騰しそうだ。
うちの近辺もすっかり春モードで杏子や桃,リンゴや梨がきれいな花をつけている。こんなところへ霜が降りたら大変だ。今夜はビクトリア州を襲った寒波が吹き込み,何日ぶりかでストーブに火が入った。しばらくご無沙汰の湯たんぽも再登場。霜が降りないといいなあ。
こういう気候変動なご時勢に,成田空港の暫定滑走路を北に延伸する工事が始まるという記事を読んだ。
三里塚には「和解」ムードの立ちこめた90年代に何度か取材に行ったことがある。「反対派」の農民たちは齢を重ね,数が減り、便利な暮らし,経済発展を求める地域社会の中でかなり孤立していた。それでも、成田空港問題を地球的な課題と捉え,足下の農地を守ろうとしていた。泊めてもらった農家の一人は日焼けした茄子の葉を見せ,温暖化のせいじゃないかなって心配そうだった。それからわずか10年足らず,彼らの危惧,心配が現実のものとなりつつある。
これまでの政治的な過程のあれこれをまったく抜きにしても,なんとも時代遅れなお役所仕事的な発想としか言いようがない。航空需要が無限に伸び続けるだろうと本気で考えているのだろうか。オイルピークという逼迫するエネルギー事情の影響を真っ先にもろに受けるのは航空ギョーカイだ。航空に頼る観光業なんてのも,これから数年後にはかなりお寒い状況だろう。米軍ですら代替燃料を真剣に考えている時代だぜ。
温暖化というにっちもさっちもいかない現実の方はどうなんだ。ヒコーキの排出する二酸化炭素は自動車(7千万トン)の半分くらい,毎年4千万トン(1990年には2千万トン)という数字があるが、自動車の3倍も温暖化に影響を与えるのだそうだ。しかも、自動車は「京都」の枠組みで削減取り組み対象にはいっているが,飛行機の方は「京都」の外だ。こういう事情を本気で心配する連中の間では,禁煙ならぬ「禁飛行」を宣言する人も出始めている。これこそ、「児孫のために自由を律す」である。
自分でも,飛ぶことにはほとほと愛想が尽きているし,ピーク以降の状況に体を慣らす意味もあり、自主的に飛ぶのをやめることにした。もう飛べないよって他人から言われるのを待つより、自主的に飛ぶのをやめることにする。
もちろん、会社の規定だからとか、飛ぶのを簡単に自粛できない世の中ではある。自分一人が飛ぶのをやめたって,その影響はたかが知れたものだという人もいる。でも、社会というのものが一人一人の集まりであるなら,一人一人が意識変革することでしか社会は変わらないのではないか。そんな気がする。温暖化を本気で心配し,児孫のためを思うなら,一人一人が各個撃破,できるところから取り組むしかない。
幸いなことに自分は自分一人の意志でやめられる。だから,唯我独尊に「脱飛行宣言」(といっても,あとひとつ、隣国への飛行予定は残ってますが,これもできるだけ船にできないかと変更を画策中)。でも,どこへも出かけないってわけじゃない。歩いたり,自転車に乗ったり,自動車や鉄道,そうでもなけりゃ,船を使うつもりでいる。
自分のようないい加減な人間がそこまで考える時代に,化石燃料の産物である建築資材を投入し,農地を踏みつぶし,滑走路の延長である。一体,何を考えているのだろう。バイオ燃料の生産か食料か、農地の奪い合い競争が始まるといわれている時代に,北総台地のおいしい農地をコンクリートで埋めちゃおうってんだから。温暖化の猛威をもろに受けるであろう自分らのガキや孫にはどのツラ下げて,説明するつもりなのだろう。
また,これから10年たった時、一体なぜこんなバカなことをしたのだって、社会全体が頭を抱えているかもしれない。アブラ切れで飛べなくなったでっかい金属の固まりを前にして、ああ,こんなのを飛ばしていた時代があったねって。
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