Monday, March 20, 2006

国の色/green and gold.


テレビやラジオは先週メルボルンで始まったコモンウェルス・ゲームズの中継で持ち切り。週末の新聞のスポーツ欄もそれ一色。緑と金(黄色に見えることが多いが金色、だそうな)のユニフォームを着たオーストラリア選手の写真ばかり。もうすっかり、食傷ぎみ。

コモンウェルス・ゲームズというのは、昔イギリスの植民地だった国や地域で作る「コモンウェルス」のスポーツ国際大会で、4年に1度、持ち回りで開かれ、これが18回目。まあ、ミニ・オリンピックですが、アメリカやロシアなどのオリンピック強豪国が含まれず、しかも、インド、パキスタン、南アフリカ、カナダをのぞけば太平洋や西インドの島嶼国家が相手なだけに、オーストラリアの活躍がとくに目立ちます。世界人口の1/3が含まれる「コモンウェルス」の現代的な意味にについては、また稿を改めるとして、今日は「国の色」と呼ばれることもある「緑と金」について。


国旗だとか国花くらいは何となく分かるが、「国の色」ってのはどうなんだろう。日本の「国色」は何なのかよく知りませんが、お隣のニュー・ジーランドの場合は、きわめて明解に黒。ユニフォームはたいてい黒。国際チームの愛称も黒がつくものばかりです。ラグビーのオール・ブラックスはよく知られていますが、クリケットの代表チームははブラック・キャップス(黒帽)。なぜ、黒なのか、その由来はよく知りませんが、たぶん、オール・ブラックスが発端なんじゃないかと推測してます。それにしても、バスケットのトール・ブラックスなんて、ほとんどだじゃれの世界。

ここまで徹底してはいないものの、オーストラリアは緑と金色のコンビネーションをユニフォームにすることが多い。調べてみると、これは国花のアカシアに由来するようで、花(金色)と葉っぱ(みどり)を象徴するのだそうです。正式にはゴールデン・ワトルAcacia pycnanthaが国の花だが、1000種類以上あるといわれるアカシア全体がオーストラリアを象徴する植物だといってもいい。アカシアはオーストラリア人にとってもっともなじみの深い植物で、社会的な意味では、日本の桜に匹敵する。もちろん、春の訪れとともにじわじわと南から上昇してくる「桜前線」は見かけないが、ワトルの花もやはり冬から春にかけ、黄色い花をつけます。pycnanthaとはびっしりと花がつくって意味だから、花が咲く頃には一面、それこそ金色でまことに見事。満開の桜の下で花見、ってな習慣はないが、春の始まる9月1日はワトル・デイとよばれ、花を愛でる習慣があります。

黄色い花を咲かせるアカシアは、大陸でもっとも見かける植物には違いないが、すんなりと国花に決まったわけではありません。大陸に広く分布して入るものの、アカシアはほかの国にもある。それに比べて、例えば、ワラターはオーストラリアだけにしかなく、これこそ国花に相応しい。そういう議論があったりして、正式にゴールデン・ワトルに落ち着いたのは白人オーストラリアが200年を迎えた1988年のことです。9月1日のワトル・デイにしても、最初にビクトリアで提唱されたのは1899年だが正式に制定されるのは1992年のこと。どちらも非公認の歴史がずっと長い。

アカシアは空気中の窒素を固定する働きがあることが知られており、パーマカルチャーだけでなく、アグロフォーレストリーなど多年生植物の役割に注目する人達に奨励されてきました。パーマカルチャーの祖先のひとり、日本のほこる福岡正信も『わら一本の革命』などの著書で、果樹園に肥料木としてアカシアを植えることを奨励しています。実際に窒素化合物を生産するのはリゾビウム属の細菌で、これがアカシアや豆科の植物の根の根粒に住み着くのだそうです。

ちなみに、いわゆる現代農業で使われる合成窒素製品1キロを作るのに1リットルの原油が必要だと言われています。オーストラリアの小麦農場では1ヘクタールあたり、1週間に150キロの窒素肥料が投入されるそうで、150リットルのオイルが畑に播かれていることになります。石油減耗の時代には輸送費だけでなく、肥料も高騰し、それが食料品の価格を押し上げるひとつの原因になることは間違いありません。

そういう時代に入り、窒素固定植物の重要性は、もっともっと再認識されてくるでしょう。固定された窒素をうまく肥料として利用するナッツや果樹を植えることも広まるに違いありません。

しかし、ひとつの場所で役立つ植物が他の場所でも有用だとは限らないことは常に意識する必要があります。たとえば、アカシアは荒れ地でも乾燥地でもどんどん成長し、在来の生態系を変えてしまうほどになることもあります。例えば、福岡の言及したミアンジアイ種(ブラック・ワトル)は簡単に育つ種類であり、重宝する品種で、うちの庭にも何本か植えられています。でも、侵略種専門家グループ(ISSG)によるデータベースによれば、これは「世界最悪侵略種100」のひとつで、移植された場所によっては、その土地固有の植物を駆逐するほどの繁殖ぶりだそうです。特に被害がひどいのが南アフリカ。

この前日本に行った時、里山視察でお目にかかった林将之さんの「このきなんのき」というサイトによれば、やはりアカシアの一種で、うちの庭にも栽培中のメラノキシロン(ブラックウッド)が、岡山に植えられたものが在来の生態を破壊するような勢いで繁殖しているそうです。

減耗時代にはこれまでの化石燃料を多量に使用して生産される人工肥料に代わるものが必要になることは間違いありませんが、だからといって、どこでもアカシアを植えればいいわけではなさそうです。均一な答えが世界中のどこでもあてはまるのは工場や試験管の中だけのことです。まずは在来種の中に窒素固定する肥料木を求めるべきで、人間の浅知恵で植物や動物を移動させると、とんでもないアンバランスを生態系にもたらすことにもなりかねません。

「緑と金」が表彰台に立ち、オーストラリア国歌がラジオから流れてくるのを小耳にしながら、今日は月の位置もよし、アカシアの種をまた、いくつか播きました。

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