Monday, December 11, 2006

水に流せない/Oz'n'NZ

あと2週もしたら東に向けた船に乗るからというわけでもないのでしょうが,アオテロア(ニュージーランド)関連のニュースが目につきます。

オーストラリア連邦下院の法制と憲法委員会は4日に報告書を発表し,隣国アオテロアとの間で、法制度などの均一化を提唱し、両国の「合併」まで視野に入れた入れた委員会を両国の参加で設置することも提唱しています。

いまから1世紀以上も前,オーストラリア大陸で植民地政府の代表が集まり,連邦を結成する会議が開かれていたとき、アオテロア(ニュージーランド)も新しい連邦への参加を検討していた歴史があります。結局,アオテロアは新国家には参加せずに独自の道を歩むことになります。代わりに,それまで不熱心だった西オーストラリアが土壇場で参加し,現在のかたちの連邦国家は1901年に発足し、両国は,それぞれ主権国家として別々な道を歩いてきました。

しかし,もともと,近代国家としては同じ英国の植民地から出発した立憲君主国,どちらの国も国家元首は未だにエリザベス2世です。国旗のデザインもちょっと目には区別がつかないほど似ています。両国で使われているコインもほとんど区別がつきません。お互いにとり、どこの国よりも似ていることは間違いありません。

安全保障や防衛についてはANZACS(Aust NZ Army corps)の伝統があるし,80年代の非核宣言以来、アオテロアがANZUS条約から閉め出されているとはいえ,一衣帯水の関係にあります。どちらかの国で、そこだけでは手に負えない自然災害が発生すれば,一番最初に助けを求めるのもお互いの国です。つい最近も、ビクトリア州で燃え盛る山火事に各州から消防団が動員され,それでも足りないので,ニュージーランドから47人の消防士が派遣されています。逆に,ニュージーランドで手に負えない災害が発生すれば,オーストラリアに助けを求めるでしょう。

しかも、1983年からは「経済関係緊密化協定(CER)」が導入され、ほとんど関税も輸入規制もなく、資本や労働の移動もほとんど自由、ほとんど「ひとつの経済」と言えるのではないでしょうか。そうした現実を追認して,制度化し,経済活動の緊密化をさらに進めよう、その向こうに「合併」も視野に入れようというあたりが、今回の報告の真意でしょう。

だから、まあ、「オーストラリアとニュージーランド、ついに合併の動き?」という見出しも、ある程度納得がいきます。

しかし,2つの国のあいだには、いくつか大きな違いがあります。ひとつは国のサイズ。オーストラリア(人口2千2百万)は世界最小とはいえ,大陸国家です。アオテロア(人口412万)はポリネシアに属する海洋性諸島国家。どちらも、もともとはゴンドワナ大陸の出身ですが,アオテロアは直接には南極大陸から切り離された島です。オーストラリアでは火山活動はとうの昔に終わり,地形も比較的なだらか、砂漠の多い乾燥した大陸です。反対にアオテロアは火山列島で,日本の富士山そっくりなタラナキ山をはじめ,背の高い山脈があり,温泉もある列島です。オーストラリアには石炭や鉄鉱石,ウランなど,鉱産資源が豊富にありますが、土地はやせており,ここ10年は干ばつに苛まれています。アオテロアには肥えた土地と豊富な降水がありますが、鉱産資源はほとんどありません。

これらの自然環境が違うだけでなく,両国の間には兄弟(どちらが兄なのか,それは意見の分かれるところですが)の間のようなライバル意識があります。それは主にスポーツの場で発揮されます。

もっとも有名なのはラグビー(ユニオン)のオール・ブラックスとワラビーズですが,クリケットならブラック・キャップスとオーストラリア。バスケット・ボールではトール・ブラックス対ブーマーズ、ホッケーならブラック・ステックス対ホッケールーズ/クッカバラズ,サッカーならオール・ホワイツ対サッカールーズ,スワンズ対マチルダズ。人口の差にも関わらず,スポーツの場ではなみなみならぬ対抗意識があります(しかし、ニュージーランドのチーム,オール・ブラックスの影響なのでしょうか、黒が多いですねえ。冬が本番のラグビーなら黒いユニフォームも苦になりませんが,夏の暑い太陽の下,黒いユニフォームじゃクリケットの選手も大変だろうな,と老婆心。)

経済の規模もかなりの差があります。2005年の数字ですが,ニュージーランドの国民総生産は1千億ドルをちょっと超えるくらい。オーストラリアはその6倍,6千300万億ドルです。オーストラリアにとり,ニュージーランドは第三位の輸出国にすぎませんが、ニュージーランドにとって、オーストラリアは大のお得意様。輸出入ともオーストラリアが全体の1/4近くを占めます。

これだけ見ると、より大きく,身近な市場に「合併」「統合」することで経済を活性化させよう、そういう声がむしろアオテロアの方から出てきそうなものです。85年以降,先進国の中で、アオテロアの経済成長率はもっとも低く、かつては先進国の中で一二を争うほどだった生活水準も現在は20位以下に落ちています。しかし、今のところ,そういう声は少数意見であり,政党の中で,オーストラリアとの間にこれまで以上の緊密化をよびかけるのは,現労働党政権の閣外連立パートナーのひとつ,ユナイテッド・フューチャー(統一未来)党くらいです。もっとも,この党にしても「貨幣の統一」を口にする程度で,それ以上には踏み込んでいません。

オーストラリア側から求愛の声が出てくるのはなぜなのでしょう。うーん,不思議な気がします。アオテロアの人たちも,なぜ,いまさらって不思議がっていることでしょう。何か,アオテロアにはくさんあり,オーストラリアがのどから手が出るほど欲しいものがあるのでしょうか。

そんなことを考えていたら、ひとつ、ありますね。水。経済の一体化,法制度の一体化を進めることは両国にとってためになる,とかなんとか言いながら,実は水の確保を画策しているのかもしれません。そう勘ぐりたくなるくらい,オーストラリアの水不足は深刻です。水は各州政府の管轄ですが、それぞれ,もっとダムを建てるだとか,淡水化プラントの建設だとか,そういう小手先の政策をいろいろ打ち出しています。干ばつ,水不足のおかげで,食品の値上がりが現実のものになっているだけに,本当、水を手に入れるためにはなりふり構わず。というのもわかる。

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んな思っていたら,シドニー・モーニング・ヘラルド紙のひとこま漫画もそこのところ,辛辣についています。

日本では水の重要さがあまり認識されませんが,世界のあちこちでは、水のために「併合」だとか、水をめぐる「紛争」なんてことが頻発化するでしょう。

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