Wednesday, November 22, 2006

25基の原発/new clear haze.

ハワード首相の肝いりで発足した「原子力政策タスクフォース」の中間報告が発表されました。原発の経済性について,予想通り,石炭に温暖化のコストを転嫁し、相対的に高くしなければ太刀打ちできないとしています。しかし,温暖化は深刻であり,切り札は「げ」の字しかない。温暖化に真剣に取り組むつもりなら,最初の原発は,建設から10年から15年で建てられる。そして、2050年までに25基の原発、国内の電力需要の3割が担えるだろう。とまあ、勇ましい結論です。
報告書はウランの濃縮の可能性についても言及しています。現在は掘り出したイエローケーキを輸出するだけのオーストラリアですが,いよいよ、濃縮から「げ」の字、そして廃棄物の貯蔵まで含む、核サイクルに踏み出しそうです(外国から廃棄物を「輸入」することは禁止されていますが,それを解除する法案が来週,国会を通過する予定)。1年近く前に書いた記事の予想通りなので,ちょいとくらくらしそうです。興味のある方は下記の記事,ご参照ください。
参照:核サイクルへ加速するオーストラリア/Welcome to the new clear daze!

世界で確認されるウランの40%を抱え,現在は30%くらいを生産する国だけに、道義的には「げ」の字に進むことは何の問題もありません。どころか輸出したウランから生じる廃棄物まで面倒をみるのが筋ではないかと思います。最近は中国とのビジネスに深入りしていると言われるボブ・ホーク元首相は、核廃棄物はカネになると発言しています。推進者たちは、道義を枕に,だから廃棄物を受け入れましょうって方向ですが,もちろん,自分は、そこまでやる覚悟がないならウランを掘り出すなって方向です。

そして今回の報告書の殺し文句は温暖化です。つい最近まで,温暖化や気候変動を気にすることもなかった政権が、「げ」の字に踏み込まなけりゃ,温暖化対策とは言えない。そう言って,腕をねじ上げようとしています。

電力の供給は現在のところ州政府の管轄であり,連邦政府が決めたからと言って,原発がすぐに建設されるわけではありません。そして,州政府は今のところ,労働党がすべて握っており,今回の報告にも否定的な反応です。州政界の野党の保守勢力も冷ややかな反応です。いくつかの州では、原発禁止を州法で決めているところもあります。

しかし,だからといって原発が建てられないかと言うと,ことはそう簡単ではありません。

ひとつは数週間前,連邦最高裁が連邦政府の導入した雇用法に下した合憲判決です。雇用関係も,電力供給や鉱業認可と同様,これまでは州政府の管轄であると考えられていたエリアです。連邦政府の導入した雇用法は連邦憲法違反であると州政府は訴えたのでしたが,ハワード政権に任命された裁判官たちはこれを合憲としました。この判決の意味は大きく,オーストラリアの連邦制度を根底から覆すかもしれません。電力供給=原発、そして,ウラン採掘の是非もすべて,連邦政府が州政府の決定を覆すことができることを意味します。すでに,マクファーレン産業大臣はその可能性を示唆しています。「州政府が気候変動に真剣に取り組まない(=原発を受け入れない)なら,連邦政府がやるしかない」と言って。

もちろん,もっとソフトな道筋もあり得ます。ひとつの州が政権交代などにより,誘致に名乗りをあげれば、連邦政府は手厚い援助(=金)を差し出せばいいだけです。それぞれの州を競争させれば,われもわれもと原発の誘致に名乗りを上げることでしょう。日本でも隣り合う自治体を競争させるってこと,ありませんでしたっけ?


そんなこんな、予想通りの展開ではありますが,オーストラリアは時代遅れな核時代へ邁進しそうです。1950年代ならともかく、いまさらなあ。

(自分はこれまでにカカドゥ国立公園の中にあるレンジャー鉱山から,エストニアのシラマエにある高レベル核廃棄物貯蔵施設,そして,その間にある原発をいくつも見学し,そこで働く人や地元の人,科学者や電力会社の人間,大臣から官僚、いろいろな人に話を聞きました。そうした核経験を雑誌,ニュー・マチルダの最新号に書きました。エーゴで、しかもカネを払って購読しないと読めませんが,興味のある方はご覧ください。
http://www.newmatilda.com//home/getArticle.asp?NID=277&AID=1940)

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