Friday, November 10, 2006

マードックの豹変/at his majesty's request.

標高千メートルの高原もぼちぼち初夏の気配,それもそのはず,先月終わりから夏時間が始まりました。果物の木にはそれぞれ,小さいながらもたくさんの実がなっています。サクランボの中にはぼちぼち色づき始めたものもあり,うまくすれば,もう何週間かあとには食べられそう。
暑くもなく,寒くもない,ぬくぬくとした気候にさそわれて,あっちで草取り,こっちで種まきなど、朝から日が暮れるまで外に出ていることが多いこのごろです。冬の反動ですかね。

庭をふらふらする時のおとも、以前は乾電池式ラジオを使ってましたが,それが壊れて買い替えるときにソーラー・パネルのついたものにしました。一応、蓄電池がはいっているので,日が暮れたり,曇ったりしてもしばらくは鳴ってますが、だんだん音が小さくなり,しまいには消えてしまいます。でも、そういう時って,あんまり外へ出ないので,不都合ではありません。日のある間,庭仕事しながらラジオを聞くという本来の目的にはまったく何の支障もありません。ソーラーにしてから、乾電池を買うこともなく、捨てることもなくやってきました(唯一の難点は、庭をあちこちして、音が小さくなり,そのまま置き忘れ,夜中に雨に降られること。2台ほど、それでだめにしてしまいました)。

今日は朝からぬるま湯のような気候の中,ラジオで世界の情勢を把握しつつ,隣の公有地で火事対策作業です。ラジオからはクリケットの実況中継も聞こえてくるので,はい,これも夏の始まり。ですね。

うちの東と南には住宅が建て込んでいるので、ブッシュファイヤー(山火事)が来るとすれば,うちの西と北、ブッシュが茂る公有地のほうからしかありません。うちから15メートルくらい、枯れ枝や枯れ草、可燃物があまりない状態で夏を迎えるのが理想です。公有地なので本来はお役所が管理するべき場所ですが,他人をあてにしてはいられません。火事になってから,あれこれ文句を言ってもあとの祭りです。んで、祭りならあとよりも先の方が好きな体質だけに,火事がきてもなるべく燃えないような体質を心がけます。特に,ここ数年は干ばつの影響で,ブッシュファイヤーの季節が早まり,長引く一方なので,気が抜けません。拾い集めた枯れ枝は冬の薪用として積み重ね,枯れ草は鎌で刈り取り,集めて果樹などのマルチにする。そんな作業を繰り返します。あまり暑くなってからだと疲れちゃうので,山火事のシーズンが本格化する前に終えておきたい作業です。ほあ。

今年もすでに大陸のあちこちで山火事が発生しています。幸いなことにあまりひどい事態には至ってはいませんが、第二次大戦末期の干ばつ,そして,1901年の連邦結成当時の干ばつが比較に出されるほど、大陸は乾いています。まあ、60年に一度,もしくは百年以上に一度の規模なんてのは頼りになる記憶や記録があり,なるほどって思いますが,ラジオでは「千年に一度」って言ってます。うーん,先住民族の記憶に基づくものなのでしょうか。それとも「史上最悪」を言い換えただけなのでしょうか。とにかく、これから3、4ヶ月,どれほどの大火が乾いた大陸をなめ回してもまったく不思議ではないことだけは確かです。

干ばつの影響は山火事の恐れだけではありません。干ばつは農業を直撃しており,それにともなう食料品の猛烈な値上がりが心配されています。フツーのオーストラリア人はメシの値段が多少上がってもあまり気にかけないかもしれませんが,水と穀物で作られるビールの値段も上がりそうで,こちらにはかなり敏感に反応するのではないかと思います。

オーストラリアでは、小麦などの穀物はともかく,金になるというだけで,綿や米など大量に水を必要とする作物を無茶な取水をしながらやってきたわけで、干ばつのダメージは壊滅的です。今頃収穫の冬作穀物は1360万トン(昨年比63%減)という予想です。野菜や果物,そして肉類の生産も大幅に減り値上がりが予想されています。オーストラリアは世界でも有数の食糧輸出国なので、影響は世界的です。日本などにも牛肉や米などを安く輸出していましたが,それも過去のことになりそうです。


ハワード首相は「農家や田舎に暮らす人には同情するし,それなりの手当をするつもりだ。経済への影響が心配だ」と相変わらず,経済が最大の関心なことのようですが、農産品は金額ベースで輸出の4分の1を占めているので,経済への影響も深刻なものになりそうです。

これを機会に、たくさんの水を必要とする米や綿栽培がオーストラリアで可能なのかという議論が始まる一方,農業そのものをもっと降水量の多い大陸北部に移してしまえ、いや,大陸北部から水を引っ張ってこよう,などという乱暴な議論も出ています。

干ばつでひからびているのは農地だけではありません。

シドニーの水瓶,ワラガンバ・ダムは南部のショールヘイブン地方からパイプラインで水を引っ張ってきて,ようやく4割を保っている状態で,それをしなければ2割を切るところまで貯水量が減っており、うちの近所,リスゴーからも取水しようという話が進んでいます。メルボルンなどビクトリア州全域も水不足。アデレードやパースも青息吐息,降水量が多いイメージのタスマニアも干ばつ状態です。なのに、都市を北へ移そうという意見はなかなか聞こえません。

この壊滅的な干ばつに対処するため,ハワード首相は州政府との間で火曜日に水に関する緊急のサミット会談を開きました。火曜日は「国を止める競馬レース」と呼ばれるメルボルンカップの開かれる日(ビクトリア州では公休日)であり、オーストラリア的な伝統を無視するのかという声があったり,サミットが発表されたのが日曜日のことであり,付け焼き刃な臭いがすることは事実です。

田舎の干ばつや都市の水不足に危機感を抱いたということもあるのでしょうが,ハワード政権の気候変動に対する取り組みが変わってきていることは事実です。

スターン報告書がきっかけなのか,報告書が発表される直前に,大規模なソーラー発電所の建設が発表されました。800ヘクタールに太陽の動きををトラッキングする2万枚の鏡を配置し,年間27万MWhを発電する発電所だそうで,ビクトリア州のミルデュラに2013年の完成を目指して建設されるとのこと。これで4万5千世帯の電力を賄えるそうです。似たような規模のソーラー発電所がいくつか,各地に建設されるそうですが、詳細は発表されていません。

もっとも、スターン報告書については「オーストラリアの二酸化炭素排出は世界の1%程度。何をやろうが中国やインドが何もしなければ,すぐに帳消しになる量だ」とハワード首相。相変わらず,渋々とした調子は相変わらずです。それなら,中国やインドからの輸入を控えれば良さそうなものですが,そんなことをすれば,経済への影響が大きいだけに,もちろんおくびにも出しません。

「中国とインド」といえば、温暖化対策にはこれらの国をくわえなければだめだ、とハワード首相と同じような口にする世界の大物がいます。

世界最大のメディア網を牛耳るオーストラリア系アメリカ人のルパート・マードックです。

ハワード政権と同じように,9月末あたりからですが、これまで温暖化を心配する人たちを笑い者にしてきたマードック系のメディアが豹変しています。世界中のマードック系メディアの温暖化に対する態度も急変しています。


マードックは今週、東京で行った講演で、それがイギリスで衛星テレビを経営する息子の一人、ジェームスに言われたものだと認めています。(ちなみに、この講演,日本のメディアは取り上げていないか,取り上げても「日本での事業拡大に意欲」てなレベルでしか見ていませんが、ここでマードックはアメリカのイラク政策を支持したことを後悔しないと語ったほか、温暖化についても世界中のオフィスをカーボン・ニュートラルにすることなどを発表しています。)

マードックがそれぞれの新聞やテレビの論調に直接口を出すタイプのメディア経営者であることを考えると、世界のメディア王の変節は温暖化対策にも大きな影響をもちます。賛成するかどうかはともかく,マードック系のメディアを敵に回したいと願う政治家はあんまりいないはずです。

ハワード政権の温暖化への態度の変節には、「だから原発を」って持ち出す口実にしたい意図も見えますが、マードック・メディアと連動しているような気がします。

マードックの豹変の影響はオーストラリアだけにとどまらないでしょう。中間選挙の影響もあるでしょうが,「京都」を拒み続け、温暖化に懐疑的なブッシュ政権の取り組みにも影響を与えるでしょう。それはそれで、地球にとってはいいことなのでしょうが、市民社会にとってはどうなのでしょうね。一人の人間の見方に世界の命運がかかっているなんて,とっても前近代的な気がするのは自分だけでしょうか。

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