日本では、主流メディアに取り上げられることもなく、報道されたとしても11月4日付けの毎日新聞の記事の見出し「<原油高騰>枯渇?無限? 年々増える埋蔵量」が示すように、懐疑的で楽観的な見方をされるオイル・ピークだが、11月24日、世界は「オイル・ピークの日(World Oil Peak Day)」を迎えた。
これはオイルピークに警鐘を鳴らしてきたプリンストン大学名誉教授のケネス・ディフェイスの冗談混じりな予言に基づくものだ。ディフェイスは、今年初めに出版された「Beyond Oil: The View from Hubbert's Peak」のなかで、世界がオイル・ピークを迎える日として、2005年の感謝祭の日をあげた。
オイル・ピーク問題を少しでもかじったものなら、現実的に、ピークは後になってからしか検証することができないことを承知しているはずだ。ましてや、その日時を特定することなど不可能なことだ。ディフェイスほどの人間が、センセーショナルな予言をあえてした真意は、もちろん、ピークへの一般の注意を喚起することにある。
特定の日時を予言することはできないが、世界がピークを迎えつつある(迎えた?)ことは間違いない。11月10日、日産200万バレルの生産が可能だろうといわれてきたクウェート南部の大ブルガン油田は、実際は、それよりもかなり低い170万バレルが限界だと国営クウェート石油会社(KOC)のファローク・アル・ザンキ会長はブルームバーグに対し、発言している。
ブルガン油田はサウジアラビアのガワール油田に次いで世界第二の推定埋蔵量といわれる油田で、2004年の日産平均は135万バレルで、現在は130万から170万バレルの原油生産だが、「この油田はすでに使い果たしてしまい、日産200万、190万とがんばってみたが、170万バレルが精一杯だということが分かった」とザンキ会は発言している。
大ブルガン油田が170万バレルでピークに達したことは、約550億バレル(約965億バレルと推定されるクウェート全体の半分以上)といわれてきた埋蔵量そのものも怪しいことになる。同じ週にIEAはこの油田から2020年になっても日産164万バレル、2030年にも153万バレルが可能だという予測を発表したが、それらの数字も、もはや希望的観測にすぎない。
昨年8月、「原油生産が820万バレル/日を上回ることはもはや、絶対にあり得ない」と発言したのは、90年代に小糸製作所の買収工作で日本でもよく知られる企業買収家のT・ブーン・ピケンズだ。
今年になってから、様々な団体、機関が2005年の統計上の数字を830~840万バレルに押し上げようと努力しているが、生産は日産820万バレルあたりで頭打ちになったままだ。これが生産ピークなのかどうか、それはまだ意見の分かれるところだが、これらの現実に対応するかのように、欧米ではUSA Today、New York Times, Wall Street Journal, San Francisco Chronicleなど主要日刊紙や、ナショナル・ジオグラフィック誌やタイム誌(10月31日号)など、主流メディアがこぞってオイル・ピークを取り上げている。
世界で生産される石油の1/4近くを消費し、オイル・ピークの影響をもろに受けるから当然といえば当然だが、アメリカでは今年2月、エネルギー省の要請で、SAICやランド・コーポレーションの上級エネルギー分析者であるロバート・ハーシュを筆頭とするチームが「Peaking of World Oil Production: Impacts, Mitigation and Risk Management(世界的な石油生産ピークについて: その衝撃、緩和、そしてリスク管理について」と呼ばれる報告書をまとめている。通称「ハーシュ報告書」の結論はWorld oil peaking is going to happen(世界はオイル・ピークを迎えつつある)。
オイル・ピークは地質学者のキング・ハバートが1956年、アメリカの石油生産について発表した説に基づいている。
有限資源である石油は使っていけば、生産はいつか頂点(ピーク)に達し、それからは減耗していくものだが、ハバートは(アラスカを除く本土48州)のピークが、それまでの生産量や発見された油田の規模、頻度などから割り出すと、メリカの石油生産は1970年にピークに達すると予言したのだ。ハバートの説は、発表当時、笑われたものだが、あとになってみると正しかったことが分かった。
現在言われているオイル・ピークはハバートの理論を世界全体に適用したものだ。日本語では、元環境庁国立環境研究所長で、現在は富山国際大学教授/東京大学名誉教授の石井吉徳のサイトがこれを詳しく紹介している。
有限な化石燃料時代がいつかは生産ピークを迎え、それからは年々減耗していくことでは合意する識者の間でも、それがいつになるのかになると、意見が分かれる。前述のハーシュ報告書は専門家による予想されるピークの時期を載せている。
2006~2007年 アリ・サムサム・バクティアリ
国営イラン石油会社副社長
イラン史講師(テヘラン大学)
http://www.sfu.ca/~asamsamb/homedown.htm#
2007~2009年 マシュー・シモンズ
世界最大のエネルギー投資銀行であるSimmons & Co. Internationalを1974年に
設立し、会長をつとめる投資銀行家。
ブッシュ大統領のエネルギー政策顧問。
「Twilight in the Desert: The Coming Saudi Oil Shock and the World
Economy」(2005)などの著書がある。
http://www.simmonsco-intl.com/
2007年以降 クリス・スクレボウスキー
英国の業界紙「ペトロリアム・レビュー」編集長
http://www.globalpublicmedia.com/articles/537
2009年以前 ケネス・ディフェイス
50年代にハバートとシェル石油で一緒に仕事をした石油地質学者。
プリンストン大学名誉教授
http://www.hubbertpeak.com/deffeyes/
2010年以前 デビッド・グッドスタイン
カリフォルニア・インスティチュート・オブ・テクノロジー(カルテク)の物理
学教授。
「Out of Gas: The End of the Age of Oil」の著者、
http://www.its.caltech.edu/~dg/
2010年前後 コリン・キャンベル
石油地質学者。
「The Coming Oil Crisis」の著者、ピーク・オイル研究学会 ASPO( The
Association for the Study of Peak Oil)の設立者
http://www.peakoil.net/Colin.html
http://www.hubbertpeak.com/campbell/
2010年以降 世界エネルギー評議会(WEC)
http://www.worldenergy.org/wec-geis/
2010~2020年 ジャン・ラヘレリ
石油地質学者、石油会社TOTALに37年勤務、退職後コンサルタント業。
www.hubbertpeak.com/laherrere/
2016年 EIA /DOE(米エネルギー省)
www.eia.doe.gov/
2020年 ケンブリッジ・エネルギー・リサーチ・アソシエイツ(CERA)エネル
ギー・コンサルタント
http://www.cera.com/home/
2025年以降 シェル
http://www.shell.com
もっとも楽観的な予測でもこれから20年以内にピークが訪れるというのだ。はっきりしていることは、石油会社が発見する新しい油田の数は減少の一途を辿り、発見される油田の規模もどんどん小粒になり、かつてのような巨大な油田が発見されることはない。現在世界で生産される石油の8割は1970年以前に発見された油田からだ。
それなのに、それなのに。
「資源の乏しい国」を自認し、食料の大半を海外に依存(ということは安い石油に頼る輸送に依存)し、オイル・ピークが国民一般に与える影響は先進国のなかではアメリカに次いで大きいのに、日本ではこの問題に対する関心が異様に低い。生活への影響ははかり知れないものがあるのに、政治団体でこの問題に正面から取り組んでいるのは、荒岱介の率いるブントの戦旗派(最近は衣替えしたのかSenkiと表記する?)くらいだ。日経(11月11日付け)にいたっては、IEAのラムゼイ事務局次長の発言を引用しながら、『ピークオイル説については「サウジアラビアは25年後に現在の倍の日量1800万バレルの生産も可能だ。手つかずの油田が多いイラクの潜在力も大きい」と退けた。』とまったく脳天気な報道をしている。
1970年代初めに国営イラン石油会社(NIOC)に入社、その後上級研究員、重役などを務め、ここ数年はオイル・ピークについて警鐘を鳴らしてきた論客のひとり、アリ・サムサム・バクティアリは10月28日付けのホームページで、ピークはすでに過ぎたことを宣言している。
日本人のほとんどがオイル・ピークとは何なのかと気付く前に、すでに世界は未曾有の石油減耗時代に突入した。
(1/12/5)
これはオイルピークに警鐘を鳴らしてきたプリンストン大学名誉教授のケネス・ディフェイスの冗談混じりな予言に基づくものだ。ディフェイスは、今年初めに出版された「Beyond Oil: The View from Hubbert's Peak」のなかで、世界がオイル・ピークを迎える日として、2005年の感謝祭の日をあげた。
オイル・ピーク問題を少しでもかじったものなら、現実的に、ピークは後になってからしか検証することができないことを承知しているはずだ。ましてや、その日時を特定することなど不可能なことだ。ディフェイスほどの人間が、センセーショナルな予言をあえてした真意は、もちろん、ピークへの一般の注意を喚起することにある。
特定の日時を予言することはできないが、世界がピークを迎えつつある(迎えた?)ことは間違いない。11月10日、日産200万バレルの生産が可能だろうといわれてきたクウェート南部の大ブルガン油田は、実際は、それよりもかなり低い170万バレルが限界だと国営クウェート石油会社(KOC)のファローク・アル・ザンキ会長はブルームバーグに対し、発言している。
ブルガン油田はサウジアラビアのガワール油田に次いで世界第二の推定埋蔵量といわれる油田で、2004年の日産平均は135万バレルで、現在は130万から170万バレルの原油生産だが、「この油田はすでに使い果たしてしまい、日産200万、190万とがんばってみたが、170万バレルが精一杯だということが分かった」とザンキ会は発言している。
大ブルガン油田が170万バレルでピークに達したことは、約550億バレル(約965億バレルと推定されるクウェート全体の半分以上)といわれてきた埋蔵量そのものも怪しいことになる。同じ週にIEAはこの油田から2020年になっても日産164万バレル、2030年にも153万バレルが可能だという予測を発表したが、それらの数字も、もはや希望的観測にすぎない。
昨年8月、「原油生産が820万バレル/日を上回ることはもはや、絶対にあり得ない」と発言したのは、90年代に小糸製作所の買収工作で日本でもよく知られる企業買収家のT・ブーン・ピケンズだ。
今年になってから、様々な団体、機関が2005年の統計上の数字を830~840万バレルに押し上げようと努力しているが、生産は日産820万バレルあたりで頭打ちになったままだ。これが生産ピークなのかどうか、それはまだ意見の分かれるところだが、これらの現実に対応するかのように、欧米ではUSA Today、New York Times, Wall Street Journal, San Francisco Chronicleなど主要日刊紙や、ナショナル・ジオグラフィック誌やタイム誌(10月31日号)など、主流メディアがこぞってオイル・ピークを取り上げている。
世界で生産される石油の1/4近くを消費し、オイル・ピークの影響をもろに受けるから当然といえば当然だが、アメリカでは今年2月、エネルギー省の要請で、SAICやランド・コーポレーションの上級エネルギー分析者であるロバート・ハーシュを筆頭とするチームが「Peaking of World Oil Production: Impacts, Mitigation and Risk Management(世界的な石油生産ピークについて: その衝撃、緩和、そしてリスク管理について」と呼ばれる報告書をまとめている。通称「ハーシュ報告書」の結論はWorld oil peaking is going to happen(世界はオイル・ピークを迎えつつある)。
オイル・ピークは地質学者のキング・ハバートが1956年、アメリカの石油生産について発表した説に基づいている。
有限資源である石油は使っていけば、生産はいつか頂点(ピーク)に達し、それからは減耗していくものだが、ハバートは(アラスカを除く本土48州)のピークが、それまでの生産量や発見された油田の規模、頻度などから割り出すと、メリカの石油生産は1970年にピークに達すると予言したのだ。ハバートの説は、発表当時、笑われたものだが、あとになってみると正しかったことが分かった。
現在言われているオイル・ピークはハバートの理論を世界全体に適用したものだ。日本語では、元環境庁国立環境研究所長で、現在は富山国際大学教授/東京大学名誉教授の石井吉徳のサイトがこれを詳しく紹介している。
有限な化石燃料時代がいつかは生産ピークを迎え、それからは年々減耗していくことでは合意する識者の間でも、それがいつになるのかになると、意見が分かれる。前述のハーシュ報告書は専門家による予想されるピークの時期を載せている。
2006~2007年 アリ・サムサム・バクティアリ
国営イラン石油会社副社長
イラン史講師(テヘラン大学)
http://www.sfu.ca/~asamsamb/homedown.htm#
2007~2009年 マシュー・シモンズ
世界最大のエネルギー投資銀行であるSimmons & Co. Internationalを1974年に
設立し、会長をつとめる投資銀行家。
ブッシュ大統領のエネルギー政策顧問。
「Twilight in the Desert: The Coming Saudi Oil Shock and the World
Economy」(2005)などの著書がある。
http://www.simmonsco-intl.com/
2007年以降 クリス・スクレボウスキー
英国の業界紙「ペトロリアム・レビュー」編集長
http://www.globalpublicmedia.com/articles/537
2009年以前 ケネス・ディフェイス
50年代にハバートとシェル石油で一緒に仕事をした石油地質学者。
プリンストン大学名誉教授
http://www.hubbertpeak.com/deffeyes/
2010年以前 デビッド・グッドスタイン
カリフォルニア・インスティチュート・オブ・テクノロジー(カルテク)の物理
学教授。
「Out of Gas: The End of the Age of Oil」の著者、
http://www.its.caltech.edu/~dg/
2010年前後 コリン・キャンベル
石油地質学者。
「The Coming Oil Crisis」の著者、ピーク・オイル研究学会 ASPO( The
Association for the Study of Peak Oil)の設立者
http://www.peakoil.net/Colin.html
http://www.hubbertpeak.com/campbell/
2010年以降 世界エネルギー評議会(WEC)
http://www.worldenergy.org/wec-geis/
2010~2020年 ジャン・ラヘレリ
石油地質学者、石油会社TOTALに37年勤務、退職後コンサルタント業。
www.hubbertpeak.com/laherrere/
2016年 EIA /DOE(米エネルギー省)
www.eia.doe.gov/
2020年 ケンブリッジ・エネルギー・リサーチ・アソシエイツ(CERA)エネル
ギー・コンサルタント
http://www.cera.com/home/
2025年以降 シェル
http://www.shell.com
もっとも楽観的な予測でもこれから20年以内にピークが訪れるというのだ。はっきりしていることは、石油会社が発見する新しい油田の数は減少の一途を辿り、発見される油田の規模もどんどん小粒になり、かつてのような巨大な油田が発見されることはない。現在世界で生産される石油の8割は1970年以前に発見された油田からだ。
それなのに、それなのに。
「資源の乏しい国」を自認し、食料の大半を海外に依存(ということは安い石油に頼る輸送に依存)し、オイル・ピークが国民一般に与える影響は先進国のなかではアメリカに次いで大きいのに、日本ではこの問題に対する関心が異様に低い。生活への影響ははかり知れないものがあるのに、政治団体でこの問題に正面から取り組んでいるのは、荒岱介の率いるブントの戦旗派(最近は衣替えしたのかSenkiと表記する?)くらいだ。日経(11月11日付け)にいたっては、IEAのラムゼイ事務局次長の発言を引用しながら、『ピークオイル説については「サウジアラビアは25年後に現在の倍の日量1800万バレルの生産も可能だ。手つかずの油田が多いイラクの潜在力も大きい」と退けた。』とまったく脳天気な報道をしている。
1970年代初めに国営イラン石油会社(NIOC)に入社、その後上級研究員、重役などを務め、ここ数年はオイル・ピークについて警鐘を鳴らしてきた論客のひとり、アリ・サムサム・バクティアリは10月28日付けのホームページで、ピークはすでに過ぎたことを宣言している。
日本人のほとんどがオイル・ピークとは何なのかと気付く前に、すでに世界は未曾有の石油減耗時代に突入した。
(1/12/5)
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