エジプト情勢がムバラク大統領が9月の選挙には立たないと宣言してからも、流動化が止まらない。バラク・オバマ政権は「しばらくムバラク」の即時退陣を求めているそうだが、それでエジプトだけでなくMena地域に広がる社会不安が一層されるのか、きわめて疑問である。
チュニジアから始まりエジプトで燃え盛る情勢不安の原因はいろいろ指摘されている。しかし、ほとんどのマスコミで軽視されていることのひとつに食糧価格の高騰がある。FAOの最新の報告によれば、食糧価格は最高を記録した12月からさらに3.4%上昇したことを伝えている。穀物の価格は、最高価格を記録した2008年にはまだ届かないものの、先月より3%上がったのが不気味だ。ちなみに、エジプトの農業大臣は「食糧の4割を輸入に頼っている。小麦に関しては6割が輸入だ」と2010年に発言している。
もうひとつ、なかなか報道にはでてこないことだが、この地域の人口構成がきわめて若いということがある。ドイツのder spiegelが指摘するように、中東から北部アフリカ地域(Mena)の人口の半数以上が25歳以下である。
der spiegelより転載
国際通貨基金(IMF)によれば、これらの地域の失業率は、スーダン、ヨルダン、チュニジア、アルジェリア、サウジで軒並み10%以上、エジプトは8%強とされている。まあ、アメリカとほぼ変わらない数字なので、なんてことはないと思ってしまいがちだが、若年層の失業率は一般的に社会全体の数字の倍といわれており、上記のように、ものすごい数の若者がいる国ではものすごい数の若者が失業しているはずだ。エジプトでデモに繰り出し、ムバラク打倒を口にする人の大半は食糧が高くなり、食うものも手に入らず、職がない、カネもない、誰かなんとかしろ、そんな気持ちなのではないだろうか。
食糧価格の高騰が引き起こす社会不安はチュニジアやアルジェリア、エジプトだけでなく、地域全体に広がっている。「食糧価格の高騰で倒れそうな25カ国」という記事にはチュニジア(18位だが、すでに倒れてしまった)、リビア(16位)、スーダン(8位)、エジプト(6位)、レバノン(5位)、アルジェリア(3位)、モロッコ(2位)と、この地域の国が軒並みランクされている。
サウジアラビアやクゥエート、アルジェリアなどの産油国は石油生産でそれなりに潤っているので、政府が補助金を出し、ある程度まで食糧価格高騰の影響を抑えることができる。クウェートは「建国50周年記念」と称して一人30万円と1年2ヶ月分の食糧を支給するが、産油国以外ではそうそう大盤振る舞いもできるものではない。アルジェリア(日産2百万バレル弱を生産。あまり多くないようだが、ちょうどOPECの余剰生産能力に匹敵するくらいの量で、特に受給が逼迫する昨今の状況ではきわめて重要。)も、政府が食糧価格に介入したおかげで、社会不安はとりあえず沈静化している。しかし、国際価格が上昇し続ければ、再燃の恐れは十分にある。
ここから予測されることは、このまま食糧価格の高騰が続けば、現在は国民の間の不満を補助金でそらしているMENA諸国のなかにも、それができなくなる国がでてくる。そして、それが何らかの形で産油国に飛び火すれば、アブラの生産が減り、現在バレルあたり90ドルを越した原油価格がさらに高騰する恐れがある。その結果、食糧価格がまた上昇する。そういう循環になる可能性は十分ある。
もうひとつ、エジプト危機の心配はスエズ運河への波及だ。EIAによれば、毎日この運河を地中海方面に百万バレル、逆に紅海方向へは80万バレルの原油やアブラ関連品が動いている。量的にはそれほどではないが、やはり、受給が逼迫した時勢だけに、ここが何らかの形で通過不能になれば、原油価格、そして世界経済へストレートに跳ね返ることは間違いない。それがまた食糧の価格を押し上げる、そして、それがまた危機にアブラを注ぐという循環になります。それがまたアブラの価格を押し上げる。
各国政府はどちらも可能性は少ないだろうと楽観しているようで、エジプトなどの「政権交替」や「民主化」で危機が脱出できるだろう、アラブとアブラの安定が回復できるだろうと期待しているようだ。しかし、上記のような要素を考慮すると、それだけで螺旋降下に歯止めがかかるものなのかどうか。
Here's a song about being twenty-five, originally released by the Mott the Hoople, All the young dudes.
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