Wednesday, August 09, 2006

プルドー・ベイ・ブルーズ/Prudhoe Bay blues.

プルドーベイ油田のパイプライン腐食による操業停止が大きなニュースになっています。
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(腐食パイプラインを伝えるcbsnews.comより)

数ヶ月にわたり40万バレルの減産ということで、ウォール・ストリート・ジャーナルにはいったい、40万バレルがどれくらいになるのか、グラフが出ています。個人的にはジャンボ機123機が満タンってのが一番わかりやすいです。

(ウォール・ストリート・ジャーナルより)

この油田では今年3月と4月にもパイプラインが破断し、原油が大量に流出する事故が起きており,今回の措置はそれを契機に行われた調査の結果だそうで、油田の操業を停止し、パイプライン22マイルのうち16マイルを取り替えるとbpは発表しています。

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(3月の原油流出事故を報ずるhttp://www.msnbc.msn.com/id/11958571/)

パイプの腐食が確認され,取り替えられるのはプルドーベイ油田の坑井からのフロー・ラインと呼ばれる部分で,万里の長城に匹敵する(笑)と言われる全長1300キロのアラスカ・パイプラインの本線(TAPS)ではありません。今回見つかった腐食がプルドーベイ地区のパイプだけのものなのか、それとも,他の地区のパイプや本線にまで広がっているのか,腐食が広がっているとすればどの程度なのか,bpはまだ発表していません。

アブラというのはガソリンや灯油のような形で油田から噴出するわけではなく,プルドーベイで生産されるのは重質ではないもののミディアム・ヘビー、かなり精製の必要なアブラです。硫黄もかなり混じっています。フロー・ラインは「液体と気体との二相混合流となり,また水分も混入していて」(石油/天然ガス用語辞典)特に腐食がおこりやすい部分だと言われていますが,硫黄まじり,しかも油田の圧をあげるため油層に水を圧入しているので、どろりとした泥のようなアブラじゃないかと推測されます。この泥が腐食の原因であることも考えられますが,3月の事故を分析する5月14日付けのペトロリウム・ニュースによれば、パイプラインを腐食したのはバクテリアだと言うことです。生産減にともない,パイプの流れも滞り,バクテリア繁殖の温床になったことが考えられます。

2005年に発表された報告書を見れば、ここ5年間、この油田では激しい減耗がすすんでいることがわかります。その年の末現在,1111の油井があり、油井あたりの平均日産は2001年には546バレルだったのが,2002年には375,2003年には350,2004年に317と減り,2005年には293バレルと報告されています。4年間で46%も生産が減っています。(ただし,この数字が正しいとすると,293バレルX1111=32.5万バレル程度になり,発表されている40万バレルには7.5万バレル足りなくなる。しかも,293バレルは昨年の数字であり,この率で減耗がすすんでいるとすれば,今年の生産はもっと落ちているはずです。)
プルドーベイ油田はここ何年か,減耗を続けています。儲からなくなったので、補修もいい加減になったということも考えられます。この線でいけば,ほとぼりが冷めた頃,これだけのパイプラインを取り替えるのは経済的ではないとか何とか,油田自体をお釈迦にすることもありえます。

プルドーベイ操業停止のニュースに、OPECは久しぶりに「増産宣言」をしましたが,市場は全く気にもかけません。その数日前、ブルームバーグは,OPEC諸国の7月期生産が前月に比べ0.8 %減と報告しているので、当たり前な反応でしょう。7月期、唯一イラクが前月比べ4万バレル増産したのを除けば,OPEC諸国は軒並み減産です。OPECは「需要がない」ことを減産の理由にあげています。このアブラ高に需要がないってのも不思議に聞こえますが,OPECのアブラは精油に手間のかかる重質原油が多くなっていることを示しています。

ピークの症状はいろいろな形で現れます。オイル・ピークに到達しても,まだまだ,アブラはこれまで使った量と同じ位残っています。しかし、これから採掘されるのは精製に手間のかかるアブラであり、深海や極地にアブラが見つかったとしても,生産や補修コストがかさんでいきます。

世界中で余剰生産能力というクッションがなくなった今,これからの道のりはショックアブソーバーの壊れたクルマで穴ぼこだらけの道を行くようなもので、些細な出来事に大騒ぎをすることになるでしょう。

一番上に上げたウォール・ストリート・ジャーナルの図をもう一度見てください。40万バレルは国内消費の2.6%に相当するというところに注意してください。おもしろいことに、この2.6%という数字は、ピーク以後に予想される石油減耗率と同じです。先日紹介した「ピーク議定書」は、この減耗率と同じだけ,毎年毎年、油の使用を減らしていくことをそれぞれの国に義務づけること,それが根幹です。アメリカは偶然,「議定書」に踏み出すきっかけを得たことになりますが、この機会を積極的に捉え、消費を削ろうと言う声は聞こえません。結局,戦略石油備蓄の放出で「急場」をしのぐことになりそうですが、7億バレル近い備蓄とはいえ、「急場」が一時的なものではないだけに先が思いやられます。
(9/8/6)

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