日経が伝えるように,「BPは6日、アラスカ油田から原油を送り出すパイプラインで数カ所の腐食と原油の漏出が見つかり、パイプラインの操業と原油生産を停止する作業に入ったと発表した。完全に停止するまで数日かかるとみられる。最終的に日量40万バレルの減産に追い込まれる見通しで、復旧にかかる日数は不明」。
40万バレルは全米消費の2.6%に相当,価格高騰に拍車がかかるのは間違いないと予測されています。
サウジアラビアは、今回のような事故がおこり、人類が危機になると,ウルトラマンのように現れて「xx万バレル、増産する」といって、アブラ供給の安全弁の役割を果たしてくれたものですが,このごろはすっかり耳にしなくなりました。これだけアブラの値段が上がり、ぼろ儲けの機会なのにサウジにはまったく増産の気配もなく,それどころか,生産量は前年比7%減です。余剰生産能力がなくなったことは間違いありません。
サウジ・アラビアの生産について,リチャード・ハインバーグがASPO第5回大会での業界人からの情報としてエネルギー・ブレティンで下記のように伝えています。(なお、全文は「Searching for Hassan(ハッサンを探して)」の著者、テレンス・ウォード(Terence Ward)の講演要旨を軸に,興味深い洞察あふれる中東情報分析です。)
「サウジアラビアからの内部情報として、業界の人間からガワール油田の生産が日産3百万バレル以下に落ちており,サウジは他の油田の生産を最大にあげることで,ようやく微減状態を保っていると聞かされた」
ガワール(Ghawar)油田は,たくさんある油田のひとつではありません。世界中で未だにこれをしのぐ油田は発見されておらず、1948年の発見(生産開始は1951年)以来,半世紀以上にもわたり石油文明を支えてきた屋台骨です。現在も,公式には日産550万バレルと言われています。
つまり,これがこけたら皆こける、というくらい、オイル・ピークの一大焦点です。1970年には日産200万バレル、そして1990年にこれまでで最高の650万バレルに達しました。この時の無理な増産がたたったのか、それ以後、これを上回る生産はあげていません。もしハインバーグの情報が正しいとすれば,1990年以来,年率約5%の減耗ということになります。あり得る数字ではあります。
サウジは減産の理由を「需要がないからだ」と説明します。もちろん、現在サウジの掘り出すアブラが精製に手間のかかる重質原油ばかりであり買い手がつかない、ということはあり得ないことではないにしても、アブラ高のご時勢に説得力に欠けます。理由が何であれ,サウジ自身,減産を認めていることは特筆しておくべきです。
ただし、ガワールの生産がそこまで落ちているとすると,いったい,どうやって穴を埋めているのだ,という疑問がわいてきます。サウジは昨年(960万バレル)に比べ7%減とはいえ,現在でも890万バレルの生産をあげています。ガワールの日産が現実に300万バレルを割っているなら、その差,600万バレルほどを残りの油田で補わなければなりません。サウジは各油田のデータを公開していないので,すべて推定になりますが,10万バレル以上を生産する油田をマット・シモンズなどの資料からまとめると以下のようになります。
●アブカイク油田 Abqaiq
すでに1973年にピークに達し,2004年現在の生産量は50万バレル以下。
●サファニア油田 Safania
生産ピークに達したのは1970年で,現在は50万バレル/日程度の生産。重質原油がほとんど。60万バレルの余剰能力があるとされる。
●ベリ油田Berri
1974年に80万バレル/日がこれまでの生産ピーク。現在は20万バレル程度の生産量。
●ズルフ油田 Zuluf
40万から50万バレル/日。
●マージャン油田 Marjan
10万バレル。
●シャイバー油田 Shaybah
50万バレル。
●カティフ油田 Qatif
50万バレル。
これらを全部、サファニアの余剰能力を加えても350万バレルというところです。250万バレルほど足りません。もし,ハインバーグの情報が正しければ,サウジ全体の日産は650万まで落ちるはずです。サウジ(やOPEC諸国)の数字は国際的に検証されたものではないだけに,実際に900万バレルを現在生産しているのか,そういう、疑問はあります。
ガワールがこれまで通り,500万バレルを生産している可能性はありますが、稼ぎ時に微減という傾向がどうにも腑に落ちません。
貯蔵タンクの備蓄を切り崩しているという可能性もありますが,そうだとすると,それが底をついたときサウジの生産量は急激に落ちることになります。アメリカと同じほど(7億バレル)の備蓄だとすると,250万バレルの切り崩しは1年くらいはできます。
それと関係あるのか,それとももっとほかのグローバル経済とやらの影響なのか,サウジの株式市場、今年はじめ以来
35%以上の暴落で、下げ基調が続いています
アブラが最高値をつけているというのに,世界最大の石油会社アラムコのリーダー(サウジ王室)たちは,何か,私たちの知らないことを知っているのか、株を売り払っているようです。同じ頃,ブラジルやタイでも株式市場が暴落していることから、これが世界的な要因による,と指摘する声もあります。しかし、もしかすると、話が逆で,世界最大のガワールの生産が急激に減耗していることに、世界のマーケットが反応し始めたのかもしれません。
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