WTO(世界貿易機構)や自由貿易協定や経済連携協定の締結といった形で貿易の自由化の促進が声だかに呼びかけられてます。いま、それがもたらす影響について、ひとつ書いているところですが、日本の大手マスコミの論調はひどい。まったく時代認識に欠けてますねえ。
たとえば、今日の東京新聞の社説はこうですよ。
「自由貿易体制強化への動きを止めてはならない。日本は事態打開へ積極的に汗を流すべきだ。」貿易の自由化で、関税など農産物の国境措置が撤廃されれば、農業への打撃が予想されますが、それについて同紙社説は「痛みは避けて通れないが、むしろ、意欲のある担い手育成などの好機ととらえて自由化がもたらす痛みを克服する」べきであると結論しています。
この無知さ加減はまったく何なんだろう。
こうした論調は日本のマスコミに共通しているようですが、正直、あきれてしまいます。
いま、自分たちが呼吸するのがどういう時代であるのか、何を口にして生きているのか、これから何を食って生きていくつもりなのか、そういう時代認識、歴史認識がまったく欠けています。
拙著やこのブログを読んでいる人には聞き飽きたことかと思われますが、人類は「ふたつの大量破壊兵器」に直面しており、現代人の生存は食料確保にかかっている。んなことは、まったく理解できていないようです。「避けて通れない」のは他人の痛みじゃないんすよ。あなたの空腹ですよ。一体、何喰って生きてくつもりなんでしょう。食料がどこでどんなふうに生産され,流通するのか、それを考えようともせず、空虚なアジテーションをする人間に報道人の資格はありません。
今日の東京新聞社説に代表される日本のマスコミに比べると、大手マスコミでは世界で初めて、今月、オイル・ピークを一面で、しかもマジで取り上げたイギリスのインデペンデント紙は6月23日付けで「世界は食料紛争に突入」という記事を載せています。
ダニエル・ハウデンの記事は、なぜ、バイオ燃料への需要が増しており、これからも増していくのか、その背景にオイルピーク(=チープオイル時代の終焉)があることには言及しておらず、その意味では突っ込みが今ひとつたりませんが、「安い食料(チープフード)」時代の終焉を認識し、そのしわ寄せがどこに行くのか、それを取り上げている点は重要です。
貿易の自由化がどんな社会をもたらすのか。これから何を食べていくつもりなのか、誰を餓死させるつもりなのか。我々の生きているいま、それを理解する一助として、インデペンデント紙の記事を下記に抄訳します。
(ちなみに、記事の中に出てくる世界穀物備蓄、53日分にまで下がるだろうとする予測もあります。ちょっと、出典がどこだったのか、見つからない!アブラのピークが食料ピークやその他のピークに連動していることは間違いありません。そこが、オイルピークの核心です。)
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英国では穀類の価格が去年1年で12パーセント上昇し、世界市場における乳製品は60パーセ ント値上がりした。「安い食べ物(チープフード)」の時代は終わりに達しているのかもしれない。
戦後育ちの我々は、食品価格というものは下がるものだとばかり思い込んできた。60年前、英国の平均的な家庭は収入の1/3以上を食費につぎ込んでいた。現在では食費の家計に占める割合はその1/10だ。
ところが農産品の価格はここ数十年で初めて、急騰しており、どこまで上がるのか、アナリストにも予測できない。
この現象は農業とインフレーションを合成しアグフレーションと呼ばれている。「安い食べ物」を過去のものとするアグフレーションにはおもに2つの理由がある。食料需要そのものの増加、そして、農産物の代替エネルギー資源への転用だ。
中国とインドでは自分たちの両親が食べていたようなものでは満足せず、より多くの食肉を要求する新富裕層が何百万人という規模で生まれており、食物の需要を押し上げている。そしてその一方で、食べられる農産物をアブラの代わりにエネルギー源として使う、いわゆるバイオ燃料の需要が増加している。
コメの価格は世界中で上昇中だ。ヨーロッパにおけるバターの価格は昨年、40パーセント上昇し、小麦の先物は、この10年間で最高値で取引される。大豆の世界価格は5割上昇、中国における豚肉価格は昨年にくらべ20パーセント上昇、インドの食料品価格指数は11パーセント上昇した。メキシコでは、トルティーヤの値段が60パーセント上がり、暴動を引き起こした。
18世紀の英国の思想家、ロバート・マルサスは世界人口の成長が、食物生産能力を追い越し、大量の飢餓になるだろうと予測したが、それを思い起こさせる現状だ。
英国では小売業者の競争のおかげで、消費者はこれまで、食品価格上昇の初期の影響から遮断されてきた。しかし、スーパーマーケットはいつまでも、価格上昇を抑えることはできない。欧州委員会には、市民を保護するだけの備蓄はいまや、残されていない。共通農業政策という改革が、バターや食肉、粉乳の売れ残りをすべて、吐き出してしまったからだ。
そしてトウモロコシだ。
トウモロコシはそのまま消費される量は比較的小さいが、間接的には、食品経済の中で、莫大な量が消費される。牛乳、卵、チーズ、バター、チキン、牛肉、アイスクリームにヨーグルト、平均的な家庭の冷蔵庫にあるこれらの食品はすべて、トウモロコシが生産に使われており、トウモロコシの価格に左右されるのだ。冷蔵庫は、いわば、トウモロコシであふれているのだ。
トウモロコシの価格は過去12ヵ月で二倍にはねあがった。農業の狙いは次の収穫時まで、十分な食物を生産することにある。世界の穀物生産は 過去7年のうち6年、消費を下回った。そのおかげで、世界穀物備蓄は57日まで減少してしまった。これは、ここ34年間で最低のレベルだ。
価格上昇の原因は、トウモロコシがエタノール生産に振り向けられているからだ。米国では来年の穀物収穫の30パーセントが、エタノール蒸留所に直行する。米国が世界で取引される穀物の2/3以上を供給していることを考慮すれば、この先例のない動きは世界各地で食品価格を押し上げている。ヨーロッパでは、エネルギー・ミックスにおけるバイオ燃料の割合を20パーセントにしようというEUの目標達成のため、農民がエネルギー作物の生産に血眼になっている。
バイオ燃料なら、有権者はクルマの運転を続けることができ、しかも温室効果ガス排出対策にもなるため、エタノールは世界中の政治家に人気がある。しかし、「バイオ燃料は万能薬ではない」、アースポリシー研究所のレスター・ブラウンは先週、米国上院で行われた説明でそう発言した。「世界は、20億人の貧しい人々がクルマを所有する8億人と穀物をめぐり、直接争わなければならない段階に入った」。
食物経済がエネルギー経済と連動するという徴候は、すでに現れている。エタノール・ブームのおかげで、砂糖価格は石油価格を追うようになり、同じことが穀物についても起ころうとしていると、ブラウンは説明する。
「アブラの価格が上昇すれば、食品価格も上がる。アブラが1バレル、 60ドルから80ドルに急上昇すれば、スーパーマーケットにおける支払いも上がることは間違いない」
食品価格の上昇は先進国の人間にとってはライフスタイルの変更ですむが、それ以外の場所では生死に関わる問題だ。食品価格の急騰は、穀物輸入に依存する途上国で、すでに暴動を生んでおり、これから、暴動はさらに広がるだろう。
世界中で飢餓に苦しむ人間の数は数十年に渡り低下してきたが、その数は再び、上昇し始めている。国連は、食糧援助の必要な国として34カ国を指定している。食料援助プログラムへの予算は限られており、穀物価格が倍になれば、食糧援助は半減することを意味する。
食物に対する権利に関する国連人権委員会の特別報告者、ジャン・ジーグラーは、米国とEUがアブラの輸入依存を減らすため、エタノール生産の促進を進めていることを「偽善そのものでしかない」と糾弾している。ジーグラーは、食物の代わりにエタノールを生産することで数十万人もの人々が餓死に追いやるだろうと発言している。
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