Tuesday, April 18, 2006

石油文明のたそがれ/Twilight in the Desert【本の紹介】


twilight060418.jpg
『Twilight in the Desert』

昨年6月にアメリカで出版され、ピークに関心のある人たちの間では遡上に上ったマット・シモンズの本をようやっと、近所の図書館で借りて読み終えた。

アメリカのビジネスマンの間でベストセラーになっていることは知っていたが、ここまで浸透しているとは知らなかった。基礎データを調べようと、アマゾンをみると460位で60本ものレビューが投稿されている。これが実際に、どのくらいの数字になるのか分からないが、それなりにアメリカにおけるピーク問題への関心の高さを証明していることは確かです。


基礎データ
【タイトル】Twilight in the Desert
【サブタイトル】The Coming Saudi Oil Shock and the World Economy
【著者】Matthew R. Simmons
【発行】Wiley (June 10, 2005)
【ページ数】448
【判型】Hardcover (9.4 x 6.1 x 1.4 in)
【定価】US$24.95
【ISBN】047173876X
【言葉】英語
【感想】

サウジ・アラビアの重要性は今さら指摘するまでもない。ブッシュ米大統領の「石油中毒」という言葉を待つまでもなく、我々の便利で近代的な生活は砂漠の王国から輸出される石油にすっかり依存している。

世界の石油中毒者があてにするのは「2600億バレル」以上といわれるサウジの確認埋蔵量だが、エネルギー投資銀行家のシモンズは、この数字の信ぴょう性を疑う。サウジのアブラ事情はベールの向こうに隠されている。アラムコが79年に国有化されてから四半世紀以上、それぞれの油田ごとのデータは公表されていない。世界は「2600億バレル」というサウジ政府とサウジ・アラムコの発表する数字を鵜呑みにし、頼り切っている。

この「2600億バレル=世界の1/4」という確認埋蔵量はどのようにして生み出されたものなのか。

確認埋蔵量と言っても、油田の推定総量のうち、9割がた回収できそうな量を計算したものだ。これらの埋蔵量の数字は、もともと想像によるところが大きく、しかも時々の経済事情により、上がったり下がったりする。サウジの確認埋蔵量はアラムコ(エクソン、モービル、テキサコ、シェブロンの所有)が国有化される前の1970年代末には、1000億バレルと推定されていた。国有化以後の82年になると、600億バレルが「推定埋蔵量」から「確認埋蔵量」に格上げされ1600億バレル。そして、88年、新規の油田が発見されたわけでもなく、特に技術革新があったわけではないのに、ぽんと1000億バレルが「確認埋蔵量」としてさらに上乗せされた。それが「2600億バレル」の成り立ちだ。

業界は、この「埋蔵量成長」をサウジの底力の証左と見るようだが、この「成長」は検証されていない。「確認埋蔵量」はサウジが申告する数字に過ぎないものなのに、国際社会ではこの数字が一人歩きし、盲信され、過信されていると筆者は訴える。

シモンズは「2600億バレル」のベールをひとつひとつ剥がしていく。彼が利用したのは、サウジのSPE( Society of Petroleum Engineers石油技術者協会)の発行する技術レポートだ。シモンズは膨大な数のレポートを丹念に解析、それぞれの油田の状態を描き出し、できのいい推理小説のように、公表された数字の裏に潜む真実をあぶり出していく。

サウジの生産の9割近くを占めるのは5、6の巨大油田である。しかも、これらの油田は生産開始以来40年から60年を経た老朽油田であり、ガスや水を絶えまなく注入し、圧力を保ち、様々なハイテク技術を駆使し、なんとか、やっと生産をあげている状態である。回収される液体のなかに含まれる水の率、含水率も上昇している。しかも、長年にわたり無理に生産をあげてきたおかげで、生産落ち込みの危険も増している。そして、サウジの油田だけが、世界各地の油田と異なり、ピークに到達しないことはあり得ない。油田はピークに達すると、急激に減耗する。年に7、8?の減耗ならば、10年以内に生産量は現在の半分に落ちることになる。

巨大油田がピークに達する前に、それにとって代わる油田が発見されればいいが、ハイテク技術を駆使し、何年も全国を探査しているというのに、UAE(アラブ首長国連邦)との国境にシャイバーが1967年に発見されたのを最後に、大油田は発見されていない。老巧化した巨大油田がピークに達し、減耗をはじめた時、その穴をうめる油田はサウジにはない。

サウジでは日産生産量は50 万バレル以上の油田は、これまで28発見されてきたが、シャイバーが最後だ。この、シャイバーにしても、現状日産生産量は 50万バレルとされ、サウジ・アラムコの予想通り、2009 年までに20 万バレルの増産が可能になったとしても、現在サウジの生産の半分、日産500 万バレルを生産する世界最大のガワール油田とは比較にならない。ガワールがピークに達し、減耗を始めればとてもそんな量では追い付かない、とシモンズは指摘する。

サウジ政府は生産能力を日産1,500 万バレルにまで引き上げ、それを中長期にわたり維持する用意があると言って、シモンズらピーク論者の懸念を一蹴する。しかし、それらの言葉は本書を読んでしまったあとでは、とても信じられなくなる。そして、もし、シモンズの説が正しいとすれば、その影響は計りしれない。砂漠の王国が黄昏を迎える時、私たちのオイル漬けの生活も黄昏を迎える。

No comments: