Tuesday, January 31, 2012

東電:てめえのケツも拭けない「ならず者企業」

今年もスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会が1月29日に閉幕した。フォーラムの会員企業経営者や知識人、各国の代表など招待されたものが一堂に会して、資本主義社会をだらだらと延命させるためにあれこれ議論する場として知られている。今年は「高くなる一方の失業率を抑えるためには経済の成長が欠かせない」なんて、あくびが出そうに退屈な認識で一致したそうだ。この連中には危機感が欠如しているようで、これじゃ資本主義の将来も心配になる。

資本家とそれに吸血する政治家どもに対する抗議も毎年行われているが、今年は、あちこちに裸で出没して抗議行動をすることで有名なFEMENというウクライナの女性団体が「貧乏なのは、てめえらのせいだ」とか「危機はダボスで作られる」「ならず者たちがダボスでらんちき騒ぎ」なんて、期待通り、やっぱり裸の上半身に殴り書きにして登場したりして、一層の注目を引いた。

これにくらべるともっとおとなしいけど、資本家どもの集まりに呼応して、この時期に「世界最悪の企業」を選ぶことが行われてきた。地球に害を与え人権を侵害した企業はThe Public Eye Awardsとして表彰されることが2000年から行われている。

この賞の主催はスイスのNGO「ベルン宣言」とスイスのグリーンピース(09年までは地球の友)。毎年、前年の8月ごろから選定が始まり、11月にはそれが6企業にしぼられ、1月に投票が始まり、ダボスで年次総会が始まる頃には最終の投票結果が出るというのが毎年の恒例。

今年ノミネートされた6社は最終投票順(と投票数)に以下の通り。
1 25042票 VALE(ヴァーレ)
ブラジルの総合資源開発企業。鉄鉱石などの生産販売が主力。 アマゾンのど真ん中、ベロモンテ州に巨大な水力発電用のダムを建設したことでノミネートされた。


2 24245票 東電
いわずと知れた核汚染企業。「儲け追求のあまり、安全性無視の結果、放射能を撒き散らし、事故後には情報隠し、隠蔽、改ざんをおこなった」とまことに真っ当な理由でノミネート。

3 19014票 SAMSUNG(三星)
有害物質を労働者に通知せず、無防備に使用し、たくさんの労働者に癌を発病させた韓国の企業。


4 11107票 BARCLAYS(バークレイズ銀行)
投機的な食物先物取引で、世界の貧困層を飢餓に追い込んだ功績が評価された英国の「名門」銀行。 


5 6052 SYNGENTA (シンジェンタ)
世界最大の農薬製造企業。その殺虫剤、殺菌剤、除草剤により大地を汚染し、農民数千人を殺したとされるスイス企業。

6 3308票 FREEPORT(フリーポート)
45年にわたり、西パプアで薄給の現地鉱山労働者数千人を酷使し、その自然環境を汚染し続けているアメリカ企業。

今年はずっと東電がトップを走り、当然ながら東電の理由で、ぶっちぎりで栄冠を獲得すると思われていた。しかし、投票終了の一週間くらい前からそれまで3位だったブラジル企業が猛然と追い上げ、結局、800票差で抜き去られてしまった。「最悪のならず者企業」の汚名を逃れるために、何らかの投票操作が行われたのではないかとの疑惑も出ている。もしそれが本当ならば、本物のならず者だ。

で、「最高のならずもの企業」の地位を免れた東電の紹介を見ると、それっぽいキャッチコピーが出てる。
WHAT WE CREATED WE COULD NOT HANDLE
自分のケツも拭けない情けない企業
。
言い得て妙。

Friday, January 27, 2012

2012年のアブラ動向

2012年もひと月が終わろうとしているが、経済の潤滑油である原油市場は波乱含みだ。ナイジェリアの内乱やイランという生産国の不安を抱え、去年国際市場からなくなったリビアの分もまだ回復できていない。いつ供給が減ってもおかしくない状況で、しかもその穴を埋める余剰生産能力はきわめてタイトだ。

この状況を反映し、国際通貨基金(IMF)は25日、経済制裁でイラン産の原油が市場に出回らなくなり、それをほかの産油国が穴埋めできなければ原油価格はが2割から3割上がるかも知れないと報じた。価格の上昇はあり得るが、必ずしもそうなるとは限らず、ヨーロッパの債務問題がますます深刻になれば,むしろ、価格が暴落する怖れもある。

ヨーロッパ経済はドイツとともに牽引車であるはずのフランス国債が格下げされ泥沼化の様相だ。これがますます悪化すれば,原油の需要が激減し供給がだぶつくこともある。しかも、ヨーロッパの危機が減速気味の中国を含め,世界経済に波及すれば原油価格は2008年後半のように乱降下することもある。

米エネルギー省EIAが今月初めに発表した報告によれば、2008年や70年代の石油危機のように大騒ぎはされなかったが、2011年の原油価格はこれまでの最高を記録した。メディアがなぜ大騒ぎしないのか、世間の大半はなぜ無関心でいられるのか、わからない。

2008年は7月に原油が1バレルあたり150ドルに迫るまでに上昇したが、その後は需要の激減に伴い、年の終わりには44ドルまで急落した。2011年は年の初めから原油価格が高止まりし、ウエストテキサス(WTI)よりも現状を反映するブレント価格は年平均111ドルで、前年比で4割増、2008年に比べてもバレルあたり14ドル高いままだった。昨年第4四半期の世界の石油消費量は2009年以来はじめて減少した。すでに世界経済が冷え始めた兆候と見ることもできる。

原油価格の上昇の影響も深刻だが、安くなればいいというものでもない。

需要の激減,そして価格の崩壊は産油国を直撃する。サウジアラビアは補助金で国内のガソリン価格を抑え、クゥエートは現金や食料をばらまき、アルジェリアは政府が食料価格に介入し、「アラブの春」の波及を防いだ。原油の売り上げを国民にばらまくことで国民の不満をそらすことができたが、価格が崩壊し、需要が減れば、これらの国でもそれができなくなる。産油国のなかでも「アラブの春」にさらされ、政情不安が広がるところがでてくるだろう。中東をはじめとする産油国の政情不安を原油の消費国はなんとしても回避したいところだが、いかんせん,できることはほとんどない。

消費国にとっても価格の低下は、直近はともかく、深刻な問題を先送りにすることになるので歓迎できない。たとえ,2008年の後半のようなレベルまで下がらなくても、80ドル台に下がるだけでも、現在の高値でかろうじて採算の取れる油田は生産を停止せざるをえない。原油の生産は水道の栓をあけたり締めたりするようにはできず、採算が取れないからといって生産を停止した油田を再稼働させるためには時間も更なる投資も必要になる。需要と供給のさらなる逼迫を数年後に先送りすることになる。

JODI(Joint Organization Data Initiative)が1月後半に発表した最新の報告によれば,サウジは2011年第4四半期、日産1千万バレルを越す生産をあげた。これはこれまでの30年間で最大の生産量だ。消費国にとって生産の増加自体もありがたいが、それ以上にありがたいのは10月には毎日2百万バレルを越し、2002年以来最高レベルに達した国内原油消費が11月には184万バレルと9.2%減ったことだ。

問題はサウジがこのレベルの生産をいつまで続けられるのか。また,イランやナイジェリアの危機が深刻化した時に,どのくらい早く,そして,どこまで生産をあげることができるのか。そして、サウジは国内の消費はこのまま抑えておくことができるのか。予断を許さない。

Monday, January 23, 2012

スマートな落とし穴

節電や省エネの方策のひとつとして昨今とりあげられることの多いものにスマートグリッドがある。スマートハウス,スマートシティなども含めた「スマート」なシステムは、エネルギー消費を抑えたり気候変動への対策として、また脱原発の文脈の中でとりあげられることも多い。

「スマート」というのは賢いという意味だから、スマートグリッドとは「賢い電力網』ということになる。もともとはアメリカで考案されたもので、発電設備から末端の電力機器までコンピュータで電力網のなかの需給バランスを最適化するよう調整し、事故や過負荷などを抑え、コストを最小に抑えることを目的とするものだ。従来の中央での一括的な制御だけではなく、自律分散的な制御方式も取り入れ、エネルギーの効率的な生産、消費を図るものだ。簡単にいえば、コンピュータにエネルギーの流れを管理させ、賢くエネルギーを使おうとするシステムのことだ。

これを住宅などの建物、都市に取り入れるものが、スマートハウスであり、スマートシティということになる。スマートハウスの「2020年の関連市場は、世界市場が2011年比441%の11兆9,431億円、国内市場が同比279%の3兆4,755億円となる見通し」との試算もある。新たなビジネス機会と捉える企業も多い。

日曜の東京新聞の付録にも「環境ジャーナリスト」の手になる『ITとエネルギーが”結婚”無理なく「創エネ」「省エネ」』と題するヨイショ記事が載っている。

「例えば,わが家の電気代の上限を決め,消してもさほど困らない家電を登録しておきます。すると,上限に近づくにつれ,自動的に登録してある順に家電を消したり「弱」に切り替えたりして,設定した電力消費量まで減らしてくれるのです」とこの記事は、「スマートなシステム」を導入すれば節電や省エネが簡単にできるかのような幻想を振りまく。

しかし、はたして賢いシステムは本当に節電や省エネにつながるのだろうか。そうなることもありえるが、実際はエネルギー効率が格段に向上しても,エネルギー消費量は横ばいか増加することがほとんどだ。コンピュータ、テレビ,クルマのエンジンはそのいい例だ。たとえば、プラズマの技術はそれ自体、それまでの技術よりエネルギー効率は向上した。しかしテレビが大型化したり、販売台数が増えれば、消費するエネルギーの量はほとんど変わらなくなってしまう。ハイブリッドエンジンがエコだからといって、自動車の台数が増えたり、ドライブする距離が増えれば元の木阿弥だ。節電や節エネのために開発された技術も、節電や省エネにもつながるとはかぎらない。むしろ、エネルギーの効率が良くなったおかげで、エネルギーの消費量は増えるという逆説は19世紀半ばにそれを指摘したイギリスの経済学者ウィリアム・ジェヴォンズにちなみ「ジェヴォンズの逆説」と呼ばれる。

スマートなシステムのもうひとつの問題は個別の器具や家庭での電力使用量だけに目が行きがちになることだ。例えば,100wの電球よりも15wの電球の方が消費エネルギーは少ない。電気器具も3時間使うよりは2時間使う方が使用電力量が少ない。というように。使用中のエネルギーに注目することは重要だが、それらの器具や家を作るためにどれだけのエネルギーが投入されたのかということを忘れがちになる。それの寿命がきたとき、廃棄するためにどのくらいのエネルギーが必要になるかということも見落としがちだ。

現在使用される家電は使用中に使われるエネルギーよりも大量のエネルギーが製造過程で投入されるものがほとんどだ。だから、それを勘定に入れず、使用中の電力やエネルギーの多少だけに腐心してもとても賢いとはいえない。

たとえば、スマートなステムの中枢を司るコンピュータについて、それを生産するためにどのくらいのエネルギーが投入されるのか。現在ネットで見つかるのは2004年に行われた研究だけだ。それは1990年に製造されたコンピュータについての研究だが,製造の過程で83%のエネルギーが使われ、実際の使用中にはわずか17%ということだ。だからコンピュータを実際に使用する時にどれだけ節電しようが、すでに大量のエネルギーが投入されてしまっているので、やらないよりはましだが、焼け石に水ということになる。

1990年製造のコンピュータとそれから20年後に作られたものを比べると,新しい製品の方が格段に進歩したように感じるかも知れない。確かに図体は小さくなり軽量で、できる仕事は格段に増え、しかもスピードも早くなっている。製造のために投入されるエネルギーも少なくなったように錯覚するかも知れない。しかし、作業が早くなったのは中に入る半導体が「進歩」したからであり、使われる半導体の数も格段に増えたからだ。したがって、投入されるエネルギーは増えているはずだ。

半導体の材料はシリコンだが、この製造にも膨大なエネルギーがかかる。日本にはシリコンの原料となるケイ素が2億トンあるというが、ほとんど利用されていない。なぜかといえば、それは二酸化ケイ素を還元し、金属シリコンにする時に膨大な電力が必要になるからだ。日本は電力の安い国で金属シリコンに還元されたものを輸入しているのだ。このことだけを見ても、賢いシステムの中核には膨大なエネルギーが投入されることが分かる(しかも、このエネルギーコストには「研究/開発」や「教育/訓練」などに投資されるエネルギーは勘定されていない)。

それでも製造過程で投入したエネルギーより大きな節電や省エネができれば問題はないのだが、「スマート」なシステムは、たぶん、そこまで頭が回るほど賢くはないようだ。

Thursday, January 19, 2012

イラン制裁の効果

イランの核兵器開発を巡り,それを阻止しようとするアメリカとの間で駆け引きが続いている。アメリカは昨年暮れに,イランの中央銀行と取引する金融機関を制裁する法律を制定した。原油売り上げに歳入の半分以上を頼るイランの輸出を止めることで,核兵器開発の中止を迫ろうとしている。それに対しテヘランは世界で取引される原油の2割が通過する動脈であるホルムズ海峡の実力封鎖の可能性をちらつかせている。

アメリカ自身はイランから原油を買っていないため、経済制裁が思惑どおりにはこぶかどうかはイランから原油を輸入する国にかかっている。特に,鍵を握るのはヨーロッパと中国だ。現在,ヨーロッパ以外でイランから原油を買う国は中国、日本,インド、韓国,台湾,トルコ、南アフリカ,スリランカの限られた国だけだ。アメリカ政府はそれらの国の経済機関がイランと取引した場合,自国の金融機関との取引を禁止すると脅している。

イランの原油生産は79年の革命の混乱で落ち込んだまま、未だにそれ以前のレベルに回復していない。70年代なかばには日産600万バレルを生産しそのうち500万バレル以上を輸出していたが,90年代はじめから生産は日産約400万バレルのまま,ほとんど増えていない。生産が伸び悩む中、イランにおける一人当たりの使用量は70年前後に比べるとほぼ倍増し,サウジ(40バレル/一年)には遠くおよばないものの,イギリスやフランスやドイツなどの「先進国」にほぼ肩を並べるレベルの年間約8バレルにまで増えている。国内消費量は2010年に生産の半分近い約200万バレルにまで達している。国際市場に出回るイラン原油そのものがどんどん減ってきている。

イラン原油のほぼ1/4を輸入するEUは制裁への参加をいち早く表明しているものの,加盟諸国がそれぞれイランと売買契約を結んでいるため,全面禁輸に踏み切るのは,早くて今年7月過ぎと見られている。 EUがイラン原油の禁輸に踏み切っても,イランが約45万バレルを別な国に売りさばくことができれば、禁輸の効果は薄れてしまう。

日本、韓国,台湾は国際市場に出回るイラン原油の約1/3を輸入している。アメリカの「同盟国」として,それぞれ経済制裁に基本的には同意しているものの,具体的な実施日時はまだ発表されていない。日本の民主党政権のように政府内の意思統一が図られていない場合もある。これらの国はEUが買わないイラン原油をのどから手がでるほど欲しいにも関わらず,アメリカの制裁とを天秤にかけると,手を出せないかもしれない。

スリランカは国内で消費される原油をすべてイランに頼っている。トルコ,南アフリカはそれぞれ自国で消費する原油の3割にあたる約18万バレル、約10万バレルをイランに頼っている。これらの国は禁輸には簡単に同調できない。しかし,かといって,ヨーロッパ向けのイラン原油が市場に出回っても、それを買いイランへの依存を高めることはエネルギー安全保障の観点から難しい。

中国はイランの輸出する原油の1/4以上にあたる54万バレルを輸入しており,アメリカの経済制裁の鍵を握るもうひとつの国だ。中国が同調しなければ制裁はほとんど効果がない。それどころか,中国はヨーロッパ分の原油を戦略的な備蓄として、たぶん,市場価格より安い値で買い取ることも予想され,そうなれば,アメリカの制裁はまったく意味をなさなくなる。

残るインドは国際市場に出回るイラン原油の約1/5にあたる37万バレルを輸入している。インドから見ると,イランはサウジに次ぐ原油供給先であり,制裁には反対を表明している。これまでのドル建て決済に代わり,ルピーで清算する話し合いをテヘランとの間で始めていることを現地紙は報じている。

イランに対する経済制裁の最も大きな問題は,それぞれの国がイランから原油を買わないとしたら,一体その穴をどこからの原油で埋めるのかということだ。イランからの原油が消費全体の1割を占める日本から玄葉外相が出かけたように,世界各国の首脳のサウジ詣でが続いているのはこのためだ。

サウジ首脳は訪れる外国首脳に,日産一千万バレルの生産を約束したり,増産を口にするが,それがはたしてどこまであてにできるのか。そして仮にサウジに増産できたとしても,増え続ける国内需要がそれを相殺してしまい,結局国際市場には出回らない可能性がある。

中国、インド、サウジの事情などを考えあわせると,イランに対する経済制裁はほとんど、たぶん,効果がないだろう。

Monday, January 09, 2012

玄葉外相がサウジに原油お願いの効果

玄葉外相が7日、サウジアラビアのアブドルアジズ外務副大臣と会談し、フクシマ後、増加する火力発電用の原油需要をまかなうため、原油の安定供給と価格安定を要請したそうだ。サウジ側はその要請に応じたと国内のメディアは報じている。しかし、これは額面通り受け取ることはできない。

サウジが約束しても,原油の安定供給や価格の安定はできないだろうと疑う背景には,サウジの原油生産が2003年から日産800から950万バレルくらいで推移してきたことがひとつ。この間に原油価格は何倍にも上がり、増産できれば増産するだけの理由があったこと。そしてじっさいに何度も「増産する」と繰り返しながら,実際は増産しなかった過去がある。本当に増産できないのか,それとも、カネなんか欲しくないと意識的に増産してこなかったのか,それは分からない。これからも増産しないとは限らないが、これまでをみると,あんまり期待はできないだろう。

安定供給や価格安定に懐疑的にならざるを得ないもうひとつの理由はサウジ国内の需要増加だ。昨年10月現在、国内消費量は約200万バレルだったが、伸びは年率7%だ。

生産が頭打ちで国内需要が伸びると,オイルピークを研究する人たちの間でELM(Export Land Model)という名前で知られる問題がうまれてくる。簡単に説明するとこういうこと。

サウジのような産油国は原油の需要が増え価格が上がると収入が増える。それに伴い国内の景気も良くなり,国内の原油需要が増す。それにともない,産油国は外国に輸出できる量が減り、国際市場に出回る原油も減る。歴史的にはインドネシアや英国がこのパターンをたどった。そして,今,サウジもこのパターンをたどりつつある。

これは、オイルピーク問題の研究者の間ではずいぶん前から言われてきたことだが、ちょうど先月,ロンドンのチャタム・ハウス(王立国際問題研究所)というシンクタンクから、この問題に関する報告書が出た。

それによれば,サウジ国内の原油需要がこのままの勢いで伸びていけば、これから10年で需要は倍増する。サウジは近隣のMENA諸国で吹き荒れる「アラブの春」が自国に波及するのを防ぐため、ガソリンなどの国内価格を安く抑えている。サウジの原油生産そのものが仮に現在のレベルで維持されたにしても,需要の伸びは輸出に回る量をどんどん浸食し,国際市場に出回る原油の量は大きく減ってしまう。また原油収入に頼る政府も基盤を脅かされ政情不安につながるかもしれない。


(灰色の線が生産量,青い線が輸出量,水色が国内需要。チャタムハウスの報告書より)

それを避け,輸出量を確保するため,報告書は国内価格の引き上げ,節約,代替エネルギーの導入などを含め、サウジの石油離れを呼びかけている。それらの策が早急にとられなければ,2020年までに一日あたり,200万バレルが国際市場から消えてしまい,価格は上昇すると報告書は指摘している。サウジの外務副大臣がなんと言おうと、このままじゃ、安定供給なんかおぼつかないし、価格の安定も難しくなるとこの報告賞は指摘している。

世界でも有数の産油国自身が石油離れをしなければ、世界に社会的、経済的、政治的な問題を引き起こすというのが、この報告書のポイントだ。需要と供給が逼迫するオイルピークの時代の現実をよく表している。

でも,現実的には国内価格の引き上げは「アラブの春」を呼び込むことになりかねず、サウジ政府も簡単には手をつけられない。サウジでは代替エネルギーの開発がそれなりに始まっているが,エネルギー需要をそれなりに賄うまではまだまだ時間がかかるだろう。結局,消費国が原油需要を落とさないで、産油国にそれを求めても難しいだろう。

こうみてくると,玄葉外相は,税金を使ってサウジまでなにをしに行ったのだろうかと思わずにいられない。「隠された問題」という副題がついてはいるが、チャタムハウスの報告書はマル秘報告書でもなく,今月初めからネットに上がっている。40ページくらいだから、一国の外相なら簡単に読めるはず。だれか玄葉外相に教えてあげてくれないかなあ。

Sunday, January 08, 2012

オーストラリアがインドにウラン輸出の真相

原発の燃料となるウランの埋蔵量で世界全体の23%を持つオーストラリアがインドへの輸出に踏み込みそうだ。ギラード首相のもと、ファーガソン資源大臣などを中心に、これまでの禁輸政策の見直しが議論されてきたが、昨年12月の労働党大会でけんけんごうごうの議論の末、インドへのウラン輸出が承認された。中道左派政党の労働党にとり、ウラン輸出は微妙な問題で、輸出解禁に積極的な党内右派からも個人的な理由で反対する議員が出た。しかし、結局は核不拡散条約に加わる北朝鮮やイラン、世界最大の独裁国である中国への輸出が認められているのに、世界最大の民主国家への輸出が認められないのはおかしい、経済的な利益を逃すべきではないという議論に押し切られてしまった。

昨年の労働党大会でこそ経済効果が正面に出されたものの、この政策変更を迫ってきたのは「温暖化対策」としての原発だ。オーストラリアの政策変換は2006年にシドニーで開催された「クリーンな開発と気候のためのアジア太平洋パートナーシップ」(Asia-Pacific Partnership for Clean Development and Climate)にまでさかのぼる。この設立会議には米豪、中国、インド、韓国、日本の6カ国から閣僚が送り込まれた。その前年、モントリオールで開かれたCOP11で、この6カ国の代表は日本原子力産業会議の主催するワークショップでパートナーシップについて協議し、大筋で合意に達していた。クリーンで効率的な技術(=原発)を途上国(=中印)で開発することが温暖化対策につながる。原発先進国の日米韓、そしてウランを売りたい豪が中印に原発の開発を迫る。それが「温暖化対策」に名を借りた原発推進パートナーシップの構図であり、今回の労働党の政策変換を促した枠組みだった。

日本国内で「原発は環境に優しい」という嘘をばらまき、官僚や政治家を洗脳し、原発輸出を経済政策の中心に据え付けた茅陽一などの戦略がこのパートナーシップの下敷きになっていた。

この枠組みに従い、ブッシュ米大統領はインドを訪問し、F16やF18の売却だけでなく、原子力協定に合意した。ブッシュの「代官」を気取るハワード前首相もブッシュに続くように訪印し、「それなりの国際査察を受けいれるなら、輸出は検討する」とそれまでの発言を翻した。2007年の選挙でハワードを破り、首相に就いたラッド前首相は労働党の政策の縛りにあい、インドへのウラン輸出に踏み切ることができなかった。それが昨年末の党大会で修正されたのである。

オーストラリアは埋蔵量こそ豊富だが、生産はこのところ頭打ちで2010年~11年の生産はここ10年間の平均である8500トンを大きく下回る7000トンにとどまった。生産停滞の理由は皮肉にも気候変動がもたらす未曾有の干ばつだと言われている。温暖化に効果のあるはずの原発の燃料生産が、温暖化のおかげで滞ってしまったのだから皮肉だ。それもあってか、政策変換を議論した党大会では原発を「温暖化対策」として位置づける議論はほとんどなされなかった。

「温暖化対策」が口実にすぎないことは明らかで、ブッシュ大統領は訪問先のニュー・デリーで、米豪や日本の本音は中国とインドを化石燃料獲得競争から押し退けるのが本音であることを伺わせる発言をした。「インドが原発開発をすることで、化石燃料の需要が減ることになれば、それは私たちに経済的な利益をもたらします。化石燃料の需要の抑制はアメリカの消費者の利益につながります」

インドでは現在6カ所の原発で20基の原子炉が運転中で、総出力は4780メガワット(MWe)。一カ所の原発では刈羽柏崎をうわまわる世界最大規模の発電所の建設がが西部マハラシュトラ州ジャイタプールですすんでいる。2010年には、2032年をめどに原発の発電量を63000メガワット(MWe)にまで増やそうという計画が発表されたが、フクシマ以降、立地を予定される場所で反対運動が高まっており、この計画が達成されるかどうかは分からない。インドにはウラン鉱床があるものの、量は微々たるもので、これから増え続ける原発の燃料確保が急務になる。2011年にインドが輸入したウランは1305トン。

労働党の政策変換を受け、オーストラリアはインドとの間に原子力協定を協議することになる。実際にウランが輸出されるようになるまでにはまだ、時間がかかるだろう。

日本でもインドとの原子力協定が国会で議論されており、フクシマさえなければ、今頃、原子力産業協会や原子炉メーカーなどの原発マフィアのもくろみ通りに事が進んでいたはずだ。昨年12月末の野田首相訪印の際も協定の締結交渉の促進が再確認された。

すでに原発輸出国のフランス(2008年)韓国(2011年)、アルゼンチン(2009年)、カナダ(2010年)はインドとの協定を結んでいる。原発などのインフラ輸出で経済再生を図ろうとする日本の企業だけでなく、官僚や政治家は気が気ではない。ウランを売り込みたいオーストラリアもカザフスタン(2011年)やカナダに先を越されてしまったという思いがある。

インドに輸出されたウランや原発が第二、第三のフクシマを引き起こそうが知ったことじゃない、それが核弾頭に組み込まれようがかまわない、カネに目の眩んだ者たちのなりふり構わない危険な争いが進行中だ。フクシマが収束しておらず、放射能は全国各地に拡散し、濃縮しているというのに「安全神話」や「温暖化効果」と「経済効果」の嘘を臆面もなくばらまき続ける連中の精神はどんな構造をしているのだろうか。良心の呵責なんてあるのだろうか。原発のもろさやいい加減さをどこまで取り繕うことができるのか。こういう連中は、もう何回フクシマを経験したら目覚めるのだろうか。

泥沼

船体にひびが入った僚艦ブリジッドバルドー号をフリマントルに護送し、再び南氷洋に戻るシーシェパードの旗艦、スティーブアーウィン号(SI)を追跡中の第二昭南丸に8日未明、3人の環境活動家が乗り込んだ。

オーストラリア国内の報道によると、3人はゴムボートで接近し、鉄条網などを乗り越えて昭南丸に乗り込んだという。SI号からは2隻のゴムボートがおろされ、この抗議活動を手助けしたという。

3人はオーストラリア国籍を持ち、西オーストラリアの環境団体、フォーレストレスキューのメンバー。

「自分たちをオーストラリア国土まで連れて行き解放すること、そして、オーストラリアの水域から出て行け」と要求している。SI号の追跡をやめさせることが目的だと見られている。3人が乗船した時、昭南丸の位置は南緯32度、東経115度21分で、岸からの距離は26キロの地点で、オーストラリアの排他的経済水域の中での出来事である。
鯨研側は「日本へ連行し裁判にかける」と強硬な姿勢だが、第二昭南丸はこのまま、3人を乗せたまま航行するのか、それとも、3人をどこかの港でおろすのか、大きな決断を迫られている。
すでに、みどりの党は3人の解放を政府に要求している。もし、シーシェパードのメンバーでもない3人のオーストラリア人を乗せたまま航海を続ければ、オーストラリア政府は介入せざるを得なくなる。外交問題にも発展しかねない。強攻な姿勢をとり続ければ、ただでさえチョーサ捕鯨に批判的なオーストラリア国内の世論を敵に回すことになる。現在のところ、第二昭南丸はSI号を追っているが、コメントをさけている政府も世論の高まりにいずれは口を開かざるを得ない。
3人を要求通り、どこかの港に下ろすとすれば、その間にSI号の行方を見失いかねない。別な船に洋上で引き渡しができればいいのだが、鯨研の態度を見る限り、それを交渉するだけの外交能力があるとは思えない。

日の丸捕鯨船団はまたもう一歩、泥沼に足を踏みこんでしまった。

Sunday, January 01, 2012

イニシャルズSS

今年も南氷洋に夏が訪れ、水産庁、鯨研が送り込む日の丸「チョーサ」捕鯨船団とシーシェパードのおいつおわれつの攻防が始まった。捕鯨船に「Research」という文字を大書きし、水産庁や鯨研は捕鯨が「科学的な調査」のためだと強弁するが、科学に名を借りた国営商業捕鯨であることは世界中が承知している。退却を「転進」と言いくるめた過去が思い出される。

水産庁/鯨研は11月に成立した第三次補正予算で「チョーサ」捕鯨名目で23億円の追加が認められ、当初の7億とあわせると、なんと例年の3倍から6倍の予算を獲得し、カネはふんだんにある。今年は水産庁の監視船も船団に加わり、「海賊行為」「テロ行為」を取り締まる体制だ。

一方のシーシェパード側は今年のクジラ防衛戦を「神風(Devine Wind)作戦」と呼び、旗艦スティーブ・アーウィン(SI)号、ボブ・バーカー(BB)号と高速船ブリジット・バルドー(BB)号の3隻に加え、無人偵察機を導入し、昨年同様、捕鯨船団の母船の日新丸を追尾し、捕った鯨の受け渡しを徹底的に妨害する構えだ。

すでに昨年12月25日、SS側は無人偵察機により日新丸の位置を確認。目標の2割程度に終わった昨年同様、今年も目標を大きく下回る数のクジラしかチョーサできないものと早くも危ぶまれていたが、SS側の追跡が荒れ狂う南氷洋に阻まれ、遅れている。船体にひびが入った高速船BBを修理するため、旗艦のSI号は日新丸の追尾を中止し西オーストラリア州のフリマントルに航行中だ。そのSI号には第二昭南丸がぴったりと張り付いているそうだ。

「こっちは腐ったバター(酪酸)を投げるのが精一杯だってのに、向こうは武装した保安官を乗せているんだぜ」とSSのポール・ワトソン代表はオーストラリアのメディアに語っている。海上保安庁から派遣される保安官が捕鯨船などに乗り込むのは2007年と昨年に続き3回目。海保は人数や装備の詳細は明らかにしていないが、今回は「過去最大の規模」だと言う。

緊張が高まってはいるが、オーストラリア政府は野党の南氷洋への監視船の派遣要求を退け、両者に自制を呼びかけるにとどまっている。南氷洋で事故があれば救出の義務を負うオーストラリアやニュージーランドの世論は、日本が復興予算を「チョーサ」捕鯨に振り向けたニュースを受け、これまで以上に厳しいものになっている。

震災、津波、そしてフクシマが未だ収束しない状況で、なぜ、これほどの予算をチョーサにつぎ込むのか。それだけのカネがあれば、食品の放射能を計測する器械を全国の学校や寿司屋、魚屋や八百屋に配置できるんじゃないか。海に放射能を垂れ流すのをやめるためにカネを使うべきじゃないか。そんな声も聞こえてくる。

その疑問に明快に答えてくれるのは元水産官僚で、捕鯨スポークスマン時代はとんちんかんな発言で国際社会の爆笑や嘲笑をかった小松正之政策研究大学院大学教授。



小松の説明を聞くと「チョーサ」が何のために行われるのかはっきり見えてくる。フクシマのおかげで、安全安心な水産食料の調達がむずかしくなった。まだ汚れてない南氷洋のクジラを食べるのは理にかなっている。震災で東北の人の雇用がなくなったから、南氷洋で捕鯨をやろう。過激派やテロリストが邪魔をするなら軍を派遣して、しょっぴいてきて、日本の法律のもとで裁いてやれ。
1930年代に満州に出かけた時とほとんど変わらないロジックだ。
小松は「チョーサ」の理由に世界的な食糧供給の逼迫も持ち出す。ピークオイルには言及してないが、畜肉生産にはエネルギーがかかる、クジラはエネルギーをかけなくて収穫できる、なんてことも「チョーサ」を正当化する理由に挙げている。だから、クジラを食べるのは環境にもいい。持続可能な未来食であると結論する。
この発言を聞いて思い出すのは、フクシマ後に東電顧問に返り咲いた加納時男が参議院議員時代に行った数々の発言だ。原発ヨイショのために気候変動とピーク・オイルを持ち出していた。あたかも、原発がすべての問題に効く万能薬、特効薬でもあるかのように。どちらも、ためにする議論でしかない。最初に捕鯨ありき。最初に原発ありき。自らの目的を正当化するためだけに、人類が直面する様々な難題を持ち出し、あたかもそれが解決策であるかのように言うところは、まったく同じだ。
クジラ肉の在庫はだぶついている。捕鯨は水産官僚の天下り先になっているという指摘もある。
国難に面したいまこそ、百害あって一利無しの「チョーサ」に巨額の税金をつぎ込むのをやめ、仕分けのメスを入れるべきではないか。メンツにこだわらず、甘い汁を吸い続ける水産官僚をバッサリ切る時ではないか。荒れ狂う南氷洋で人身事故が起こる前に英断を下すことが急務だ。